いなくなったリリィーン
甲板にも積まれているコンテナ。
おそらくは積載量オーバーで違法。
でもこの事態には助かる状態。
平積みだが、コンテナの高さは二メートルはある。隠れて裏手を進むことは容易。
少し開けた甲板中央に展開して魔物を迎撃している船員達。
魔物も目の前の人間にしか意識を持たない。
タロー達三人はあっけなく船首側に到着できたのだった。
「ここまでは、なんとか、か……」
「早くしないと、な、な、な?」慌ててるチィルール。早く戦線に突撃したい模様。
(どーして、コイツは、先祖が猪なんかな?)
「作戦あるんですか?」とリリィーン。
「いや?」
「はあ?」
「まあ、背後からの奇襲が作戦ちゃあ作戦かな」
「じゃ! 早く、早く!」
「ジッとしていても仕方ないですが?」
「うーん……」
タローは悩む。
ココから二人を突っ込ませてもいい――
だが、初撃で奇襲が終了してしまうのも、もったいない気がする。
「リリィーン、お前のその武器、アリスさんの刀じゃないけど、イケルのか?」
リリィーンが装備しているのはトンファーだった。扱いが難しそうな武器だが?
「首領の愛刀を使えるわけないでしょう! もし、なんかの間違いで傷つけようものなら、私、二度とアソコに戻れませんし……」
「そっか、うん、そだな。確かに……。じゃあ、ソレ、ちゃんと使えるんだな?」
「当然! 私、実は近接格闘系戦士なんですし」
ヒュン・ヒュンってトンファー振り回すリリィーン。
(えwww? 信じれねー でも……他に駒はない)
覚悟したタロー。
「わかった。リリィーン、まずは、お前が魔物の背後からけん制するんだ。魔物の相手をする必要はない。あくまで、けん制、オトリだ。向こうの船員の攻撃を待つんだ。逃げろ、避けろ、もし、防ぎきれないようならチィルールを投入する。だから安心して戦え」
「うむ、了解だ。タロー、貴様、なかなか策士だな」
(初手チィルールじゃ、一発詰み決定だしな。オレの知らないお前の力に期待したいんだぞ? マジ大丈夫なんか?)
「行ってくる!」
「待て!」
イキリたって出陣しそうになるリリィーンをタローは制止する。当然だった。
「なんだ?」
「お前、オレが誰だか忘れてるのか?」
「タローだろ?」
「っ、この、バカが! オレは漂着者だ!」
「!」
「いくぞ!」
「おお?」
「マジック・エール! 奇跡を起こせ! この者に加護を!」
タローが漂着者にしかない奇跡の魔法を発動させた。
それは『マジック・エール』魔力を持たない男の中で唯一、異世界からの男だけが発動できる奇跡の魔法。
ソレを与えられた女は絶大な潜在魔力を放出する。
煌くタローの手のひらがリリィーンの尻を『パチンッ』と、ひっぱ叩いた。
ソレを受けて輝き始めるリリィーンのケツ!
(ひゃうわ? あああああ! コレがタローの『マジック・エール』か? 噂どころじゃねぇースゴイーっ! 力が暴走? する!!)
リリィーンの握っているトンファーがグルグルと凄い勢いで回転を始めた。
しかも、半透明な緑色の魔力光を放っている。
「イケルか!?」
「……ぁぁ」
「リリィーン!?」
「は!? 凄い! これ、イケます!!」
「よっし! でも、いいか? そのチカラ、敵を倒すためだけじゃなく、自分の身を守るためにも使わなきゃダメなんだからな!?」
タローの真剣な眼差し。
思わず目を逸らしてしまったリリィーン。
「わかってます! 私だって死にたくないです!」
「よっしゃ。 ……もし生きて帰ってこれたら、あ、やっぱ、これナシ、な?」
「なんですか!?」
「死にフラグになるし」
「はあ? 心残りになるようなこと言うほうがっ!」
「わーた。うーん、じゃあ、戻ったらナデナデしてマッサージしてやるからな。頑張ってこい」
「はあ? なんですか、それ? わっははは――」
「いや、あはははは……」
「ヒヒぃー、でも、緊張、ほぐれました。感謝します、タロー」
「そっか」
「行ってきます」
「頼む」
一歩踏み出したリリィーン。
『べしゃ』
そして、二歩目で、転んだ。
『ぎゅううう・いいいいいいん』
手前に突き出された格好のトンファーが唸る。
『ずががっがっがががががががっががっが!』
回転するトンファーが甲板を掻き毟り、本体であるリリィーンの身体を引きずって前進。
「はぅわ!?」
前輪駆動の糸車みたいに疾走を始める。
「ひっへっ?」
ギュぃーンと加速しながら、魔物と戦う船員達の戦場に突入。
喧騒の中に消えていった。
さらば、リリィーン。




