戦いへの覚悟
船の甲板は戦場だった。(船の甲板は船上だった……ぷぷぷーっ)
破壊衝動に捕らわれた魔物達の凶暴さよ。
手当たりしだいのデタラメ無秩序だ。
金や女といった人間の欲望みたいに目的がないゆえに、ただただ『乱暴』それしかない。
嵐類いの自然現象だ。
それゆえ人も、躊躇なく魔物を斬り捨てることも可能なんだろう。
「すっげ。魔物の集団。どーすんだコレ」
呆れるタロー。
甲板後方から開けた前方の船上の有様に絶句する。
「行くしかあるまい」と前に出るチィルール。
「待て? 突っ込んでどーするの? 君、なんかいい戦略あるの? んんー!?」
「ないが?」
「なんでそんな『戦略ないけでどソレがドーした?』って感じなの? お前、不死身のゾンビなの? リセット効くの? タイムリープのヒロインなんですかーぁ? あー! それ、ね? お前自身はいいけど、オレら全滅しちゃうからやめてくんなーい!?」
「タローは相変わらず不思議なことを言う」
「お前の行動原理のほうがオレにとっては、よっぽどファンタジーですがぁ?」
さすがにタロー、チィルール、リリィーンの三人では戦力不足だ。
だが、しかし――
「積荷を守れーっ!」
「おおーっ!」
船長の号令で前方甲板の床の蓋をあけ一斉に飛び出す船員達。
ほとんど全員、魔力なしの男。
魔力なくして魔物に対することはできない。
だが?
互角程度にやり合っていた。
「あれ? なんで男が魔物と戦って?」
「あー、あれ、魔武器ですよ」とリリィーン。
「へ?」
「武器に魔力をチャージするんです。この船のエンジンに私達が魔力注入したみたいに。魔蓄池で魔力注入してその武器で男でも魔物と戦えるんです」
「へー」
タローは改めてチィルールへの信頼を無くした。
聞いてた話と全然違うのだ。信じた自分がバカだったと思うよりほかない。だって相手はチィルールだし。
「チャンスだ! 甲板に詰まれたコンテナの裏手を回り込み、船首側から魔物の背後を突き、挟み撃ちにする。いいな? オレに付いて来れるな?」
「おう!」
「もちろん!」
「いいか? 静かに、気付かれずに! だぞ?」
「うん」
「はい」
「もし、ヘタしたら。お前らゲンコツ喰らわせるからな! 覚悟できてるな? んん!?」
「は……」
「ひ……」
(なんとかイケるか? 失敗したらゲンコツ程度じゃ済まない結果になること、コイツら分かってねーよな。けど、どっちみちナンダロ! くそ!)
もし、ダメでも結局タローも死ぬことになる。
(せめて、やさしい台詞言いながら抱きしめて最期を迎えさせてやりてーなぁ。どっちかの――)タローの覚悟。
(タローのこと絶対守る。私は死んでも――よくないけど、死んでも守る)チィルールの覚悟。
(私、要領いいからこんなトコで死ぬわけないし)リリィーンのいつも。
全員の覚悟が決まった。
そして戦闘が開始される。




