7.出会ったらバトルそれは馬の運命
断崖崖っぷちの峠道を爆走しながら下る馬。
搭乗するのはタローと、元手綱を握っていたチィルールだ。
元手綱……なぜなら暴走する馬をコントロールできないせいで、パイロットであるチィルールはとっくに恐怖で失神していたからだ。
「誰か止めてー!」
操縦方法など知らないタローの叫び。
だが実際のところ、かってに走ってる馬のドラテクは大したものだった。
馬はハイスピードでやすやすとコーナーをクリアしていくのだ。
しかし、次に現れる難所のヘアピンカーブは!?
「ヒッィーン!」
さすがに馬も急減速。
そして、そこからが素晴らしかった。
「ブッヒィーンッンッ……」
ブレーキによって前輪、いや前足に荷重を乗せつつ、リヤの後輪(後ろ足)を慣性に従ってナチュラルにスライド! 荷重の乗った前足で、そのテール(ケツ)を巧みにコントロール!
「オオ! なんて安定したカウンターステア!」
タローも感嘆。
ヘアピンコーナーを流れるように踊るようにスライドしながら駆け抜ける。
乗るものに不安を感じさせない絶妙なドライビィングテクニック。
「でも誰か止めて?」
安定したコーナリングといってもやっぱり怖い。
それに、すれ違う荷馬車や旅人達の視線。
それは完全に暴走族扱いの迷惑行為。
「あ!? 前! 止まれ! 馬あああ!」
前方に道を塞ぐほどの大きな荷馬車が、峠道をゆっくり下っている。
「ぶつかる! 馬! 前見てんのか?」
「ヒヒーン(なんぴとたりとも俺の前を走らせねぇ)」
走ってない。
うらやましいほど、のんびりしてる。
追突する気か?
「バカ馬、止まれ!」
だが馬は加速した。
(もう、ダメだ)
追突を覚悟してタローは再びチィルールを抱きしめる。
「ヒヒン(まあそう騒ぎなさんな)」
「はあっ!?」
余裕の馬、そして再び起こる奇跡。
「壁走りだとー!?」
緩やかな左カーブの側面の崖を、馬は這い上がる。
世界が90度横を向いてた。
そして、そのまま前方の荷馬車を追い越したのだ。
「忍者馬かよー!? けど、それより、さっきの馬……」
だがしかし、タローはピンチをくぐり抜けたことよりもさらに嫌な予感を感じていた。
そんなアクロバティックな走行に対する恐怖よりも、もっと大きな不安にかられたのである。
それは追い抜いた荷馬車の馬の瞳の輝きにに、このバカ馬と同じものを感じたからだ。
(確かに大きな馬だった。でも荷馬車だろ。ムリムリ・ナイナイ)
そう思いたかった。
でも、その荷馬車は凄い勢いで追いかけてきたのだ。
「はあああ!?」
「ブルルン!(久々に、この俺の魂に炎をつける奴が現れようとはな――)」
そんな空気を纏った馬車馬。すごい迫力で迫ってくる。
「アホかー! この世界の馬、みんな頭おかしいー!!」