突然のお別れ、涙イロイロ
早朝。
朝霧の中。
児童保護施設『天秤の羽』の入口には二台の馬車が停まっている。
第三小隊の子供達に見送られるタローとチィルール……そしてリリィーン。
お別れは突然にやってきた。
だが、チィルールに追ってが掛かったのだ。猶予もなかった。
夕べの話で、タロー達は朝一番の船便で国外に脱出することになった。
手はずはマフィアがやってくれた模様。
「シスター、お世話になりました」とタロー。
「いいえー。こちらこそー。タロー君にはーイロイロね? いつでもーいらっしゃい。歓迎するからねー」
「シスター……ありがとうです」
「皆も元気でな?」とチィルールは子供達に声をかける。
「チィねーちゃん……」涙する子供達。
とりわけ隊長のロイシュは号泣。意外かも?
「俺、オレは、チィねーちゃんのこと……」
「ん? どうした?」しゃがみ込んでロイシュの様子を伺うチィルール。
(やっぱロイシュ、チィルールのことが……)
タローだけでない。
(言っちゃえぇ)その場みんながロイシュの味方。
「……俺、大人になったら、たとえ敵国だろうと! 必ずチィねーちゃんのこと……むか――会いにいくから!」
「そうか、待っておるぞ」
ロイシュ頬を赤らめながらチィルールに抱きつく、そしてチィルールの頬にキス。
「きゃあ!」とチビッコ達、色めきたつが……
「いつでも遊びに来るがよい。歓迎しよう」と言いながら立ち上がるチィルールは、躊躇なくロイシュがキスした頬を自分の服の袖で拭った。まるで子犬に舐められた頬を拭うように実に自然に……だった。
(お前ぇぇチィルール! ロイシュの想いー!!)とタロー。
だが、とうのロイシュ、『あ! まぁ、そですよねー』って感じで悟ってた。散々辛らつをなめた人生を過ごしてきた第三小隊隊長だけあって逆境にはクレバーだった。ゆえに惨し!
「……」一方、蚊帳の外状態、一人たたずむリリィーン。
マフィアの制服も施設のジャージも奪われ、私服姿。
白シャツに紺ベストに同色ショートスーツにミニスカートの三つ揃え。でも荷物をまとめた大きな茶皮リュックを背負ってるのが違和感。リクルートスタイルに巨大な皮リュックはバランス悪い。
「……」
「あれ? お前いたの? 解雇になったんだろ? なんで生きてんの?」ロイシュ八つ当たり? 容赦ない。
「……」
「とっとと、そのヘンで野垂れ死にしてくれば? お前ほんとにトロイよなぁ――ペッ!」
リリィーンの足元に唾を吐き捨てたロイシュ。
「……、ボソっ……」
「はあ? なあにぃ? なんですかあ?」
「ロイシュ、には、お土産、買って、きて、あげない、んだから!!!」
「はっ! おめでたいこって! 土産? あほか! 生きて帰ってこれるんかよ? もし戻ってこれたら何だってしてやらーわ!!」
「ぐぬぬ! その台詞、覚えとけよ?」
「なんで? 意味ねーじゃん? わはははは!」
「ぐぬぬんうぬぬぬぬう!!!」
リリィーンの瞳が涙で滲んだ。
こっちはこっちで熱烈なお別れシーンであった。




