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チィルールの正体 ついでに解雇


「タロー! 何処だーっ!」


 夕食が終わり、みんな順番にお風呂に向かい始めるころあいの施設に乱入してきたのは組織の首領ドンアリスちゃん。


(何事?)


 当のタローは借り出した本を雑魚部屋の窓際の壁に寄りかかって読んでいたところ。


「あー! アリスちゃんだー!」と子供達のはしゃぎ声が混じりながら、その喧騒がタローの居場所へと近づいてきて、ついに部屋の入口に現れたアリスちゃん。チビッコたちに囲まれ、しかも何人かをぶら下げた状態。


「ここかー! きーさーまー! よーくーも!」

「へ? なんで怒ってるんすか?」


 殺気をまとったアリスちゃんの様子。

 身に覚えがなく戸惑うタロー。


「いますぐ消えろ――さっさと! 出てけっーぇ!!」

「へぁ? はい、あのぉ? え?」


「タロー君、ごめんなさいね。チィルールさんと一緒にシスターのところに来てくれるかしら? 事情を説明するから」


 チビッコを抱えたローリィさんもやってきてその言葉。

 なにかあったらしい。

 チィルールを呼んで学長室に向かうタロー。







「襲撃? なんでオレが命を?」

「貴様ではない。チィルール……殿下のほうだ」

「こいつを? あれ? そんで、殿下? まじで?」


 全員の沈黙が肯定を示した。


「いきなり言われてもさ。チィルール、お前ほんとに殿下というかお姫様だったの?」

「そうだ。オクエンを名乗っておったろうが。普通薄々感づいてもよかろうに。では改めて名乗らせてもらおう、私の名は『チィルール・ロクドルオクエン・ヨシモト』である。タローは知らぬようだがロクドルとオクエンは貴族称号と家系だ。ヨシモトが本家本名だ」

(なるほど、日本式にいえば吉本チィルールちゃんですね、ってなんじゃそれてか、お前吉本かよ日本人大阪生物かよ)


 シスター、アリスちゃん、ローリィの三人が同時に『ふぅ』と重いため息を吐いた。


「じゃあ早くお城? に連絡いれなきゃ? チィルールもいいよな?」

「うむ、私を狙うなど国家の一大事じゃ。いたしかたないな」


「無理な話だな」とアリスちゃん。他の二人も頷いている。

「なぜじゃ?」

「なぜ気づかなかった? ここはマンエン国領内だぞ?」


「え……知らなかったそんなの」


 青ざめるチィルール。


「どういうことです?」とタロー。


「ここはマンエン国、そこの姫の国は隣国オクエン国。そしてマンエン国とオクエン国は休戦中とはいえ、戦争中の敵国同士だ」

「はああ? チィルールお前、なんでそんなとこに?」

「いや、森で迷子、じゃなくて迷ってたら、タローに会って、それでまた迷って……」


「それで、よくこんな敵陣奥地の田舎地方までやってこれたものだ」呆れるアリスちゃん。


「お前の迷子力ってスタンド能力並じゃね?」と皮肉るタロー。


「なんだソレは?」と一同。


 とりあえず状況確認。

 チィルールはオクエン国のお姫様。そしてお姫様は迷子になり敵国のマンエン国に侵入。その前後にタローと出会う。それから呑気に敵地で生活。どこかでその情報がマンエン国の王家に伝わり、暗殺を企てられた。と……


「チィルール、逃げなきゃ、やばいんとちゃう?」

「う、うむ。まさか、ここがマンエン国内だったとはな」

「いや、それは普通気付こうよな」

「だが、どうやって帰れば……」

「また迷子の心配か」

「違う、国境をどうやって越える?」


「来たときはどうやったのだ?」とアリスちゃん。


「密林を一週間以上彷徨い歩き、食べるものもなく、何度も死にそうな目にあって、最後にもう死ぬな、と思ったらなんとかジプシーに助けられました」

「へ、へえ……」


 タローの発言に、どう反応していいかわからないアリスちゃん達。


「まぁ、私たちも、貴様らには世話になった分もある。義理は最低限果たすつもりだ」

「脱出を手伝ってもらえるんですか?」

「はは、タローはこちらに残ってもいいはずだがな?」分かっていながらイジワルなアリスちゃんの質問。

「まあそうなんですけど……」


「な、タロー! 貴様?」

「でも、あなた方に身柄を拘束されるとき、無関係なコイツが一緒に来てくれたんですよね。頼りがいなんてゼロを振り切ってマイナスなコイツでも、いてくれて嬉しかったんです」

「タロー……」頬を赤らめながらタローを見つめるチィルール。

「チィルール…… いやらしい目でこっち見んな」

「はああ!? なにを言っておるのだあ! お、おまえというやつわー!」

(変な恋愛ムード出されてたまるか……)


『コンコン』そのとき扉がノックされる。


「シスターぁ、なんか用ですかぁ?」


 扉が開かれ、だらしない様子のリリィーンが入室、しようとして、中にいるアリスちゃんとローリィに気付き、バタンと扉を閉めなおして外に戻った。


「なにをしている! はやく入ってこんか!」アリスちゃんの一喝。


「は、失礼いたします。リリィーン、出頭いたしました!」


 入室するリリィーン、うってかわって気をつけのポーズ。


「うむ! では用件を伝える! リリィーン! 只今をもって貴様を解雇とする!」

「ほえええ!?」


 シスターに救いの視線を送るリリィーン。

 だがシスター無言で首を横に振る。


「およ?」ローリィにも首を振られる。

「およよ?」アリスちゃんはジッと無言のまま。解雇を否定しない。

「お、およ?」タローにいたっては納得いったかのように首をウンウンと肯かせていた。

「お、およ? およよ? およよよーん!」


 床に崩れ落ちたリリィーン。悲しみの断末魔がおよよーんって部屋に響いた。



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