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拷問部屋で行なわれた陰湿なイジメ、ダメ! 絶対よくない!

逆噴射カタルシス

いつもどおり、人を選ぶ内容です

自己責任で閲覧ください


「モッフェエエエエエ!? ぬわ? ここは?」


 熾烈な拷問の後、気を失ったアンチャチャチャが目を覚ました。 


「しっかりなさい?」


 ローリィがアンチャチャチャにティーカップのお茶を口に添えてやる。


「ゲフォ、カタジケナイしし」


 素直に茶を啜るアンチャチャチャ。


「で? どうだ? 話すか?」と、意地悪な質問をするアリスちゃん。


「ふん……、ほんとによげか? クク……、知ってしもうたら? お前ら、知らぬぞえ?」


「あー、スペーシュ先輩、こやつ、もう少し遊んで欲しいそうです」

「よっしゃあああ」いきり立つスペーシュ。

「オア!! まてーぇいい!!! あい、わっかった!! そのケダモノ、近寄らせるなあああ!!!」


 命令だか悲鳴だか分からない口調のアンチャチャチャの絶叫。

 そして、白状。


「……ということじゃが? お前ら、知ってもうたな? もう、生きては済まされぬぞえ?」

「……」

「ワシとて教えたくはなかったぞえ?」

「……」

「貴様らが無理やり白状さえたのもう?」

「……」

「どうするぎゃ? 国相手に? 戦うきゃも? こんな田舎マフィアが? キャッキャッキャッ」

「……」


 スペーシュ、アリスちゃん、ローリィ、三人、円陣組んで内緒話。


「やっべーぞ!」

「さすがに国相手は……」

「ヘタしたら、この街、消滅させられるわよ?」


「さて、どうするなし? ワシを殺すかえ? だが、ワシがこの街にいるのは周知。ワシの行方が消えれば街ごと証拠隠滅もありえるわなし」


 この国の政府ならやりかねない話だった。


「こりゃ、アレしかねーだろ?」

「はあ? なんですか? アレって? ……あの、アレとは?」

「あれって、まさか、アレ?」

「そーだ、アレだ」

「ほんとにやるの? ってか、やるのよね、アナタは……」

「やるが? なにかぁ?」

「だから、なにを? ですか? アレってなんですか?」


 アリスちゃんだけ蚊帳の外で、スペーシュとローリィで話がついた。


「いーから! お前、やられる役ね?」

「はあ?」

 

 突然、そんな役を振られたアリスちゃんだったが、そんなのは子供のころ散々やらされたことだった。ガキ大将のスペーシュにいいように指示される。なんか懐かしい気分になったけど、全然、意味不明……


「ほら、刀よこせ! 鍵もだ!」


 両方取られたアリスちゃん。


 そして、あろうことか、スペーシュはアンチャチャチャの手枷足枷を外した。


「な! 先輩?」

「いいから! で、アンチャチャチャはコレもって?」


 あげく、アリスちゃんの刀をアンチャチャチャに握らせる。


「は! ぅあ?」


「さて、血染めの天秤が首領ドンアリスと伝説の殺し屋アンチャチャチャとの戦いはいまだ続いているのであった!」


 刀を握らせたアンチャチャチャを後ろから抱き上げ、振りかざすスペーシュ。その台詞である。


「な、な、なあ?」唖然呆然アリスちゃん。


「伝説のアンチャチャチャ、その刃が空を斬る!」


 スペーシュがアンチャチャチャに握らせた刀に手を添えて、自分がフリフリさせる。

 アンチャチャチャも拷問のダメージが残っているせいか、それともオモシロそうな流れにか、ジッと身を任せていた。

 刀は鞘に収められたままだったが、ヒュンヒュン振り回されたあげく、アリスちゃんの脳天を直撃する。


「きィ!」悲鳴のアリスちゃん。少しよろける。


「伝説のアンチャチャチャの攻撃が炸裂!」

(さっき頭殴った仕返しか!)抗議のつもりでスペーシュを睨みつけるアリスちゃん。でも?

「なにやってんだ! オメー、やられる役つったろーが!」

「は!? (そういう流れなのか……いや、しかし、でも?)」

 

 ローリィに助け舟の視線を送るアリスちゃん。

 でも、ローリィの応え。『頑張れアリスちゃん! GOー!!』の合図。


「も一回……」とスペーシュ。

「いえ! ぐふぁああ! ヤーあ・らーあー・れーター…… バタリ!」と床に伏せるアリスちゃん。


「プーっ!! ハヒャハヤヒャハハハ。『ヤーラーレーター』って! ハヒャヒャハヒャハッヤ! オメー、それはネーよ! しかも、『バタリ』ってなんなん? なあ? なんなん? ぶひゃはははひゃひゃひゃ!」


 スペーシュ大爆笑。いや、アンチャチャチャもケタケタ笑ってるし、なにより、ローリィすら背中を向けて、なんか身体を震わせている。

 アリスちゃん、外した、いや、大当たりした。これがコントコンペなら優勝だったかも。

 でも、かなしいかなココはコンペ会場ではなかった。


「ぬがわああああ!!」

「オメー、やられたっつてんだろが? おお?」 


 顔を真っ赤にして立ち上がろうとするアリスちゃんを、スペーシュは足蹴にして、床に踏み潰した。


「ガハッ! な、な、なな……」

「そのまま、死んどけや! あああ?」


 アリスちゃんの首筋に乗せた足に、荷重をかけるスペーシュ。


「ゲファ……」


「こうして、伝説のアンチャチャチャは勝利したのであった。めでたし、めでたし」


 なんか、かってに話をまとめたスペーシュ。


「キャッキャッキャッ! なかなか愉快であったもし」


 この茶番に満足そうなアンチャチャチャ。


「というわけで、アンチャチャチャ様の勝利です。マフィアはあなたの要求にお答えいたします」

「ほーか? では漂着者、及び連れの女はどこなもし?」


「それは私が」とローリィがアンチャチャチャの前にでて跪く。

「で? どこなし?」

「それが、二人は我々を欺き、邸内から脱出したのでございます。時は三日前のことでございます。奴らの行方は我々にもまったく分かりませぬ」

「なぜ庇うなし? 反逆罪で皆殺しになりたかえ?」」

「……」


 確かに国を敵にしてまで庇ういわれはなかった。だが、タローの働きで自分達や子供たちの将来に希望がもたらされたことも事実。それがなければ迷いなく受け渡すところだった。


「逆にお聞きしますが、反逆の疑いを掛けられてまでその者たちを庇わなくてはならぬ理由はありません、そう、お思いませんか?」

「なるほどか。だぎゃ、貴様らがオクエン家と内通しておる可能性もやな?」

「もし、あの女の正体を知っていたならば、あり得るかもしれません。ですがそれならなおのこと、このような地からの脱出の手はずをし、すでに送り出したあとのことになってございます」

「確かにな。正体を知らぬゆえ、滞在させる。だが正体を知ってなお、庇ういわれはなしとな。情にかられて庇うとしても、その程度のことで反逆罪で皆殺しとでは天秤に合わぬし、それはジレンマよのお」

「そのような者が、このような地にいるとは夢にも思いません」

「確かにじゃ。それはワシも半信半疑じゃったが。うーん、十分な言い訳は揃っとるようじゃの。じゃが……」


 踏ん切りのつけれないアンチャチャチャの様子。


「いーじゃん、いーじゃん。マフィアに殴りこんで首領ドン倒して、尋問したけど、もういなかった! で!」とスペーシュが呑気に会話に介入。

「しかしな、ワシにもメンツというものが……」

「ほーぉ、マフィアに殴りこんだけど、田舎のイモ武者に返り討ちに合いました。そして、ゴーモンされて、アッケなく自分の使命と雇い人を白状しました。それと、ゴーモンはコチョコチョでした! っていうのでメンツたつのか?」

「ひ! (それはマズイ、アンチャチャチャのいわれですら嘲笑から畏怖的な響きに替えるまで相当の年月が掛かったというに!)」


 アンチャチャチャが殺し屋をはじめた頃、調子にのってつい、カッコつけながら標的に向かって『あぁ、その暗殺者参上だ』と名乗ろうとした。のだが実際は『あ、アンチャチャチャ参上おー』と噛んでしまったことがあった。シリアスな場面でそれはない。爆笑した標的を顔真っ赤にしながら殺し、その仕事は片づけたのだが、どこから漏れたのか噂になってしまった。しかも、標的に笑われたせいで恥ずかしくなって泣きながら逃げ帰ったことに改変されていた。自分の容姿と合わさって誰もがそれを信じて屈辱的な時代を生きたこともあった。そんな暗黒の時代が再び訪れようとしている。しかも、噂のインパクトとしてはアンチャチャチャ以上。もう立ち直れないかもしれない。


「あい、わっかったも! ここには居らぬも!」慌てながら態度急変のアンチャチャチャ。


「ククク……」床に這いつくばっているアリスちゃんが、その様子を嘲笑した。


 アリスちゃんにとっては少しでもの意趣返しのつもりだったのだろうが、これはマズイ。


「んん? いま死体が笑ったも? んんんー?」


 アリスちゃんを覗き込むアンチャチャチャ。


「なんぞ? この死体? ゾンビかえ?」


 アンチャチャチャ、ひれ伏してるアリスちゃんの後頭部殴る。


「ク……」

「なわけなかろーがのお? やられた本人が『ヤーラーレーター』とか教えてくれたなもし」

「プッー! わはははははは――」とスペーシュが思い出して吹き出した。

(笑ってはダメ! 笑ってはダメよ? 私が笑ったらアリスちゃんの立場が……えーと、羊が一匹、羊が二匹と――)ローリィは必死に耐える。


「く、クウっ、くくっ」屈辱に震えるアリスちゃん。


「バタリ! とか申しておったげな? 実に親切よのお?」


「く、貴様!」辛抱堪らず、身を起こそうとしたアリスちゃん。

「死体が動くな!」


 だが、アンチャチャチャとスペーシュ二人に足蹴にされ屈服させられる。

 アリスちゃん、床に伏しながらローリィに救いの視線。

 だが、ローリィのジェスチャー『アリスちゃん、ダメ! シット、シットよ?』だった。

 もはや観念するしかなかった。


「キャキャキャ、哀れよのう。せっかくマグレで勝利したもに――」

「な……」

「結局、キサンは田舎のヘッポコイモ武者というげな?」

「っ……」

「ま、順当な流れでの決着といううこのぜな? こんイモ武者が調子のに乗ってこのザマよ。キャッキャッキャッ!」

「……」


 アリスちゃんの心、ポッキリした。


「まぁまぁ、そろそろ、それくらいにして、どうです一献?」とスペーシュ。

「キサンとかや?」

「これでも、家は貴族なんで、いろんな酒、ありますよ。和酒とかも――」

「和酒か! それは、久々に――」

「家のシェフ、東方系なんで、和系の食事も作れるかも?」

「うむ、よいぞ。案内せな!」

「はい、風呂の用意もさせておきましょう」


 アンチャチャチャとスペーシュ意気投合しながら拷問部屋を出て行った。

 残されたアリスちゃんとローリィ。

 だがアリスちゃんひれ伏したまま動かない。


「アリスちゃん、もう、いいのよ?」

「……」


 アリスちゃんの肩がプルプル震えていた。

 

「頑張った。アリスちゃん、頑張った。よく耐えたわね?」


 ローリィはアリスを抱え起こし、胸に抱きしめた。


「アリスちゃんのお陰でマフィアも救われたわ」

「ヒッ……フッ、ヒッフ……」

「誰にも言えないけど、この街を救った英雄なのよ? あなたはね?」

「私、ヒック、はぁ、ヒック、マフィアの首領ドンで、ヒック、ヒック」しゃくりあげるアリスちゃん。

「うん、そのお勤めちゃんとできたね。私はちゃんと知ってるからね。アリスちゃんがすごく頑張ってたこと」

「ううう……、ヒック、あの、ロリババア、と、ヒック、ううう、あのクソババアめぇ ヒック……ううう」


 涙ながら二人に聞こえないよう悪態をつくしかないアリスちゃんであった。


 

アリスちゃん、こっちオイで? いい子いい子してあげるから……

でも、まあ俺の仕業なんすけどね? ヒャーハッハッハッ!!

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