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6.異世界の馬


(馬ってけっこう速いんだな)


 車とかに乗り慣れているタローには意外に思えた。


「おーい、チィルール。スピード出し過ぎじゃね? 街まで体力もつの?」

「だみゃておれ! 舌をかにゅぞ! ムッフー!」

「へーい(うっわ、コイツ、スピード狂だわ。ヤッベ)」


 車に乗ると性格が変わる人の話はタローも聞いたことがある。


(馬でも乗ったら性格変わるヤツもいるんだな。んー? でもちょっとヤバくね? さっきも道から後ろ足、滑り落ちそうになってたし。4WDだからって限界はあるでしょ)


 下りの峠道に侵入した馬は、その速度を維持したまま曲り道を通り抜けていく。


「おーいチィルールぅ! 分かったから! お前のドラテクが凄いのは分かったから。なんか怖いからスピード落としてくれ」

「……」

「チィルール!?」

「……」

「おい?」


 反応のないチィルールを不審に思ったタロー。

 次の瞬間、脱力したチィルールの身体がズルリと馬上から地面へと滑り落ちそうになった。


「うなっ!?」


 落下しそうになった身体を慌てて抱き寄せる。


「お、お前ーっ! いつから失神してたー!!」


 どうやらペーパードライバーだったらしい。そしてコントロールしきれずに暴走した馬のスピードにびびって失神してしまったのだ。


「馬に乗れねーなら、最初から言えー!! 暴走させておいて気絶とかアホかー! あー!! なんか股間も生暖かくなってキター!」


 チィルールの股間から溢れた温かみのある液体がタローの股間をも生暖かくしてくれたのだった。


「パイロットが死亡とか! ヤバイ! ヤバスギ! ヤバイしか言えないくらいヤバイ! どーすんだコレ!」


 崖っぷちの峠道を凄い勢いで下っていく馬。

 崖下には小川が流れているが、それよりも崖斜面に突き出しているゴツゴツとした無数の岩。

 もしソコへ落下したならパチンコ玉が釘の間を弾け飛ぶがごとく、身体を滅多打ちにしてくれるに違いない。


(足を踏み外して滑り落ちる程度なら岩が逆に受け止めてくれるかもしれない。でもこの速度で振り落とされたら絶対にヤバイ。死ぬ。全身の骨がグチャグチャ。小川に到着したころには小動物たちにも食べやすい『人のつくね』の出来上がりだ)


 青ざめるセイヤ。窮地からの脱出手段がなにも思い浮かばず、逆に悲惨な末路しか想像できない状況でしかなかった。


「これが物語なら、誰か助けてくれるかもしれない。でも誰もいねー! コッチにはまだ誰も仲間いないし、辺りにも人気が、ねー! だからってオレがなんか出来る余地もねー! 詰んでるだろ! これ詰んでるだろー! なんのアイデアも思い浮かばねーよー! 死ぬ! 絶対コレ死ぬ!」


 まぁ普通死ぬと思う。


「オレはいったい、なんの為にこの世界に転移させられったてんだー!! ちくしょうー!!」

 

 喚き騒ぐセイヤなどお構いなしに馬は突き進んでいく。

 やがて進行方向の先に現れた急なカーブ。

 これはもはや、例えバイクや車でもこの速度では曲りきれないだろう。


(ウソだろぅ、ここがオレの死に場所なのか。なら、せめてチィルールだけでも……)


 絶望するしかないセイヤ。

 ぎゅっとチィルールの身体を抱きしめて目をつむった。


「くっそー!! オレの中に秘められし、ご都合主義の不思議力デロー! 『マジーック! エーぇへっルーぅ!!』……ピキーン! ピヨピヨピヨピーン!! 空を飛っへーぇ。(シーン)……ぐぬぬ」


 そのまま何も起こらずにコーナーへ侵入する。だってタローにそんな設定はないのだから。マジックエールの能力は他者を救済する為の力である。他に出るものがあるとしたら、チィルールみたいにおしっこ・ジョーくらいのもんである。


「くぅ……?」


 だがしかし、コースアウトはしなかった。


「んん!?」


 薄目を開けてセイヤの視界に入ったその状況。

 砂塵舞うコーナーを斜めにスライドしながら突き抜けていく、その馬の華麗なドライビングテクニックよ!


「ナッニッーィ!! 四輪ドリフトだとー!?」


 驚愕のタロー。


「フッ……(下り最速の座は誰にも譲らねー)」


 華麗にコーナーをクリアした後の馬の鼻息が全てを物語っていた。


「まさか、コイツか? スピード狂、お前だったのか……」

「ヒヒーン(俺はやるぜ。やってやるぜ)」

「馬あああああああああああ!!!」


 加速する馬。


 道はまだまだ続いていくのであった。


 

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