伝説のアンチャチャチャ参上
荷馬車は少女の言葉通りに、そこで止まった。
「オジサン、ありがとう」
「ここで、ほんとに、いいのかい?」
「うん」
「でも、ココ、マフィアのアジトって聞いたよ?」
「大丈夫、おネーちゃん、マフィアの団員だから!」
「え? そうなのかい?」
「うん! 会いに来たの! だからヘーキだよ?」
「そっか、思い切り甘えておいでな?」
「うん!!」
少女を残して荷馬車は行った。
そしてこの場、マフィア『血染めの天秤』そのアジト、入り口である。
(フーン、没落貴族の館を摂取して砦となしたきゃ?)
少女、入り口の門番に近寄る。
門番は槍を掲げた男二人。
「なんだ? なに用か? ここは血染めの天秤本拠地なるぞ!」
「まぁまぁ、いいんじゃね? どした? なんか用か?」
普段なら子供とはいえ、威嚇し追っ払うとこではあるが、ピコピコとオサゲを揺らしながら近づいてくる少女に気が緩んだのだろう。
「ココに来た漂着者のおニーちゃんとおネーちゃんを探してるの……」
「そっかー、残念だけど、もお、いないよ?」
「ふーん。いたんだねし? どこへいったもか?」
「お譲ちゃん訛ってるねぇ。でもそれは俺らのも分からんもし。はは――」
「なら、どけな! もし!!」
少女の手元が一瞬、銀色に輝いた。
だが、二人の門番はそれが何かも分からず、気絶した。
魔撃である。普通は刀などの武器に載せ放つものだが、少女は指先にソレを載せただけで大人の男二人を倒した。彼ら二人はたった一瞬のささやかな魔撃でHP0にされ、気を失ったのだ。力の差がありすぎる。
「タアイもなし。田舎のイモマフィアぜな!」
少女、マフィアのアジトにズカズカ侵入していった。
邸内は静かだった。
昼食も終わり、気だるい午後の憂鬱を向かえようとしていた。
「妙だ?」
邸の主、金色蛍のアリスは違和感を感じていた。
静か過ぎる気がする。いや、この時間なので平穏なのは当たり前だが。
「こんな状態がありえるか?」
なぜか不穏を感じる。平穏な時間帯の静寂、それが安らぎではなく不安に感じる。
まるで、自分以外の全てがウツロに思える。
だが、その原因は不明。
デスクの電話を取り、内線で参謀部に連絡してみる。
「異常はないか?」
「どうしたの?」受話器をとったのは、たまたまローリィだった。
「様子がおかしい」
「エ! でも、こちらには、なにも? でも、アリスちゃん、感じたのね?」
「分からん。自信がない」
「なぁに? それぇ?」
「分からんが! 分からんから、マズイ気がする!」
「わかった! とりあえず、点呼してみる」
「頼む」
受話器を置いた。
(なんなのだ、この感覚は? いまだ感じたことはないぞ? 連絡もなしに先輩(先代首領スペーシュさん)が侵入したというのか? それなら笑い話で済むが、悪寒の種類が違う気がする。マズイだろ、コレ!)
アリスは自らの武装を確認して、部屋を出て行った。
ローリィからの連絡を待つ余裕はないと判断した。
もう完全戦闘モードだった。
(頼むから、私の刃で斬れるモノであってくれよ?)
相手が未知なる魔物であることも考慮した。
でなければ、一瞬で負ける、そんな予感がした。
一見、邸内に異常はない。
(だが、先ほどから誰ともすれ違わんというのはモハヤな……)
ホラー映画の定番パターンだ。
さすがに警戒するアリスちゃん。
(映画もたまには役に立つ。壁をぶち壊して現れるパターンも考慮せねばな!)
肩を慣らしてリラックス。
腰の刀の按配を確認。
気合入れなおして、歩みを進める。
だが?
「なんだ貴様……こんなところでなにを……」
通路を曲って、踊り場で見つけたのは、子供の女の子。
しかも、まったく見知らぬ子供。
その子もアリスを見てキョトンとした様子。
「えーとぉ、あのね……」と少女はしどろもどろ。
「そうっかぁ、わかった!!」
アリスは抜刀してその少女に斬りかかった。
「ぬを!?」
斬撃を見事にかわしながら、少女、驚きの様子。
「か弱き幼子に向かってイキナリかえ?」
「か弱き幼子だと? 誰がか弱きだ? 誰が幼子なのだ?」
アリスは眼を開いた。そこには金色に輝く瞳。
「ほぅ……魔眼か」
「我が瞳には、化け物の姿しか映っていない。貴様はいったいナニモノ――いや、人間ですらあるのか?」
「さてな? 魔物の呪いを受けて成長は止まった。年齢など数え飽きていくつかもわからん。いつ死ねるかもや」
「く、哀れな」
「そうか? まぁ、退屈ではあったがやゆえに、生きたドラマが見とうてな? こうして殺し屋ゃなんげに、身を落しともぉ」
「殺し屋だと? 私をか?」
「アホか、貴様のような田舎マフィアのイモ武者など誰が狙ろうか?」
「意味がわからん! 貴様、ここになにしに来た?」
「漂着者? おるなや?」
「そうか、タローが目的なのだな?」
「そして、もう一人おりょうが?」
「……」
「キャキャキャ! カワユイものよ。おったぜな?」
「放逐した! ここにはおらん!」
「そうか、なら教えよ?」
「居場所など知らん!」
「ではない。なぜ、きゃつらを庇うんなんや?」
少女姿の化け物にはすべて御見通しのご様子。
「なぜかだと? なぜならば、友を、救うのに理由は要らずだ」
アリスちゃん覚悟を決めて中段に刀を構える。
「キャキャキャ、イモ武者らしいのよう。ま、だいたい分かった。手加減してやろうな」
「なにを!」
「貴様みたいなおは、力の差を把握すると、たいがい、自害するぎゃ? キャキャキャ」
「クズな! ますます、哀れだ、この魔物が!!」
「もうすこし、気のきいた返しはできなかそーれ? 期待できなそうなあ?」
「この……」
「せめて、命乞いだけは聞かせてくれたもーし」
「……」
「それまでは――君、死にたもうことなかれ……」
バトル開始される。




