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伝説のアンチャチャチャ


 マフィア『血染めの天秤』の首領ドンアリス。彼女は金色蛍の異名を持ち、襲名一年未満の新米首領ドンにしては皆からそれなりに畏怖されている存在。

 彼女はデスクに両肘を付き、風格ある佇まいで首領ドンの椅子に座ってはいたが――


「アリスちゃん、顔、またニヤケてる!」


 副官のローリィに威厳形無しなセリフを投げかけられる。


「いや、そんなつもりはないのだが――でもな、フフフ」


 でも実際、糸目で澄ましたアリスの表情など一般人には区別つかないだろう。

 二人の付き合いの長さゆえか、それとも、ローリィの感覚が優れているのか。


「そんな感じで、もう一週間もよ?」


 だが、それも仕方ないかもしれない。

 思わぬトコから副収入のアテがついたのだ。

 マフィアと児童施設の年間運営費は一千五百万オクエン(円)。自立した者たちの寄付がメインである。それでもギリギリ赤字。たまに活動による報奨金などの臨時収入、そんなアテにならない収入で増え続ける借金の返済にあてている。もしかしたら、その借金を返済できるかもしれない。団員たちにも衣食住の面倒を見てやってるとはいえ、月二、三万程度のお小遣いしか渡せない。その給与もアップできるかもしれない。そうすれば、大目に見てやっていた賄賂の享受など厳しくできるかもしれない。それら現実逃避して見えないフリをしていた頭の痛い問題から開放されるかもしれないのだ。

 予想だが、年間で五百万オクエンの副収入を見込んでいる。


(年間で蛇四、五本なんて楽勝のはず。予算が三割増しなど夢のようだ。ムフフフ)

(まーた、ニヤケちゃってる)

 

 団員たちの士気にも影響するし、そろそろ不安なんだけど、とローリィは考えていた。


「好事魔多し、そろそろ気合いれなきゃ」

「大丈夫だ。逆に私は今、凶悪な魔物にでも立ち向かってみたい気分なのだ」

「なんかフラグっぽいけど――しらないわよ?」



――――――



 街中

 飯屋が連なる通りがある。

 そこでは、店の中に収まりきらず、軒先にまでテーブルとイスを広げ、まだ、昼前だというのに酒盛りをしてる男達が何十人もいる。だが彼らは荒くれ者ではあっても決して悪党、ごくつぶし連中ではない。みな、漁師である。早朝夜明け前に出港し漁を行って帰ると、市場に品を下ろし、仕事完了。彼らにとってみれば、今この時間こそが晩酌酒盛りの時間だった。

 会話の内容は漁の出来不出来、今後の見通しなど真面目なものから、下世話なシモねたスキャンダルまで多様である。

 その通りの中を一人の少女が歩き抜けようとしていた。

 十才前後でおさげの髪型。ピンク色の髪はあまり長くはない。ので、おさげもチョンマゲみたい。

 そのマゲが歩く度にピコピコ揺れて実に愛らしい様子。

 服はこの辺では珍しい東方系の和装タイプ。といっても、撫子な着物ではなく凛々しいハカマ姿である。凛々しいついでに帯刀もしていた。和型独特の編みこみグリップと芸術性のある鍔をもった反りのある片面剣。本物であるだろうが、子供の持ち物ではない。

 だが、無用心すぎる。

 武装しているとはいえ、女の子一人で来ていいところではない。


「どうした? お譲ちゃん。迷子か?」

「学校にも行かないでワルな譲ちゃんだ」

「どうだ? ワルの譲ちゃん。オジサン達と一杯やってかねーか?」


 ワハハハと笑い声が溢れた。

 早速、絡まれる。まぁ、酒の肴がわりのダシにされ、からかわれるくらいは当たり前だ。

 誰かにビールぶっかけられて泣きながら逃げてく、そんなパターンで上等な状況。だが?


「では、お言葉に甘えまして」


 空いてる席に鎮座の女の子。


「はあ?」


 これはよくない。

 男衆、バカにされたと憤慨。

 魔力持ちの女が強いとはいえ、少女が大人に対してのソレではない。


「ギャルソン!」


 女の子が給仕を呼ぶ、ただ、店が店だけに給仕などおらず、オーナーのオッサンが出てくる。


「なにか? ごようで?」

「おぅ、スコッチはあるか?」

「スコッチですか? 年代物になりますが?」

「いいぞ。ボトルで、よこせ!」

「はい? あのぅ……」

「金なら心配するな」


 少女、テーブルに金貨撒き散らした。


「アエエエ!?」一同、驚愕。大金だ。子供の持ち物ではない。

「いいから、早く持って来い!」

「は、ただいま……」


 驚愕の様子のまま時間が過ぎ、奥からスコッチとウィスキーグラスが届けられる。

 ボトルの封を空け、グラスに『トクトク』と酒を注ぐ少女。

 ツゥフィンガーくらい盛って、グラスを手にとる。

 『まさかな』という周り雰囲気をぶち破り、少女、一気飲み。


「カッはあああ――、効くなあ……だが、やっぱり味わいなら和酒に限るな……」

「ヒエエエエエエエ!!」


 一同、降参。


「お譲ちゃん、いえ! お嬢様ってナニモノでらっしゃる?」

「少しは分かったっ風よのぉ? 我は貴様らより年上なんじゃるがのぉ?」

「え?」

「我は成人。子供ではないがのお?」

「まさか? いやぁ――本当に?」

「当たり前ぜな? でなけれな、酒など飲めまい?」

「いや失礼を――」


 もう完全に少女のペースだ。

 ボトルの酒を皆に振る舞い。

 料理もジャンジャン追加。

 少女は金貨を撒き散らす。

 もはや冷静な者など誰もいない。


「ところで、みなもに、聞きたいことがあるぜな?」

「へっえ? アヘッヘエヘエヘ……」

「漂着者がいるとそうだな?」

「漂着者ーあ?」

「漂着者の話、ききたもさーれ!」

「あー! それかー! そんで、譲ちゃんみたいなのが、いっぱい来てーえ!」

「それで、どうなぞ?」

「ああーっ! あれなー!」

「それなー!」

「だからなー!」

「あーなったー!」


 酔っ払いは勝手に漂着者の噂を、それ以上聞いてもないのにワーワー喚き始めた。


「北の森林に放逐だとさ、あのチンピラが……あのマフィアくずれのクソが!」

「北西の滝に突き落とされたんだって、マフィアの見習いのガキが言ってたぜ?」

「マフィアが殺したっていう噂があるぜ?」

「ちげーヨ! 殺したことにして売ったんだよ! だから最近マフィア、羽振りいいんじゃねーか!」


 でもみんな言うことバラバラ。


 だが、しかし、少女だけは冷静に、それらを聞きとめ、分析し、客観的に判断した。


「キーワードはマフィアかな?」


 これ以上、ここに用はないので金貨を捨てて立ち去る少女。

 


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