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タローのケツ

ケツ 短いです

 

 食堂。

 いつもどおりの風景。

 配膳終了して、いつものお祈り。

 お盆の上の食事もいつものメニュー。

 パン二個に、スープ一皿。しかも、スープは大きい子と小さい子で量が違う。

 まったく、いつもどおり。


「では、お食事を――、でも、みなさん、お食事しながら聞いて聞いてください」


 シスターの事情説明が始まる。


「実は先日捕獲したお肉はもうありません」

「エ! えええーっ!! なんでー?」残念がる子供たち。

「でもー、ほんとはー、売れましたー、三十万でー」

「え! エエ!? うそー!」驚く子供たち。

「ですからー、今回の食事はー、ちょっと奮発しちゃいましたー、ご堪能あれー」

「わーい! やったー!」


 シスター、売値をさりげなくサバ読んでる、しかも落としておいてから、期待を引き上げる話術、これはさすがなテクニックなのか? 子供たち、お肉食べれなくなったこと、完全にゴマかされた?


 子供たち、奮発された食事をあさる。

 でも、スープはいつもどおりの野菜のスープで肉とか珍しいモノなんてなにもない。

 

「どこ?」

「なんも、ないよ?」


 不満の声が漏れ始める。


「ないじゃん……」


 誰かが呟いて、それで静まる。

 しらけたムードで食事が進むが――


「わー! ナニこれ!」と一人の少女が絶叫。


 一同、ざわめく。


「パンに、なにかあるよ!」


 みんな、パン、かじる。


「うめー!」

「なんか、はいってる!」

「おいしいー!」


 みんなが、パンを観察。

 パンに挟まれてるタマゴソースに気付く。

 スクランブルエッグにちょっとだけ、酢と油を加えたマヨネーズもどきのソース。

 隠し味はチーズっぽい味のヨーグルトっぽいモノだ。

 調味料として少し使う分にはコスト的にどうってことはない。

 だがおかげで風味は倍増した。

 オレの自信作。

 そしてなにより、みんなに同じ分量で分け与えれる。


「なんか、はさまってる!」

「タマゴだよ、これ」

「タマゴ!? すごーい!」

「おいしいねー」


 チビッコたちには大好評。


 ヤッタ! 心の中でガッツポーズ。


「でも、これ、兵隊食じゃん? いーの?」

「いや、ちょっと違う。兵隊食は割ったパンにタンパク質を挟み、押しつぶした後、酢や塩を塗って保存性をあげ、戦地に携帯してゆく。これはその前段階のモノだ」

「べつに、いいじゃん、これ、フツーにウメーし!」


 大きい子の反応は微妙か。でも予想の範疇だ。

 料理人のオジイサンとシスターの説明で分かってはいたけど。

 この世界はパンやゴハンにオカズ的な何かを一緒にして食べるのはマナー違反というか、禁忌らしい。

 組み合わせによっては兵隊食となって、子供に食べさせるのは不謹慎とか。

 でも、ハンバーガーという料理をなんの躊躇もなくガツガツ食ってお代わりしてたチィルールを知ってるから、イケルと思ったんだ。


「こんなの初めてぇー」

「だヨねぇー」

「うめえよ、これ?」

「こんな食い方サイコーじゃん!」

「また、やってくれよー」


 なんか、大きな子たちの評価もうなぎ上りになってきた。

 気付いたらみんなが絶賛してくれてる。

 ワイワイがやがや、みんな嬉しそうにパンを頬張ったり、意地汚く、パンに挟んであるタマゴソースを舐めとったりしてる。

 

 よかった、ほんと、よかった。みんなに平等に幸せを分けてあげれた。

 

 それがオレの望み。

 達成できた。


 なんか、オレ……


 おっと、スプーン、床に落としてしまった。

 拾うフリしてテーブル下に隠れた。

 時間がない。急がないと――

 オレは慌てて目からこぼれ落ちる涙を拭った。


 もぉ、大丈夫かな?


 と、思ってたら、誰かがオレの頭をナデナデしやがる。

 チィルールだった。

 一緒にテーブル下に潜り込んでいる。


 なんで、お前――。


 そんなことされたら、お前―― 涙が止まらなくなるだろ!

 

 オレ、泣いた。



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