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タローの起


「じゃな……」


 先代首領ドンのスペーシュさん、あっさりお別れ。

 みんなでお見送り。


「ゆっくりしていけばいいのに……」とシスター。

「そうか、じゃあ、あと、二、三日……」

「え!?」


 その場全員が身構えた。


「嘘、ウソ、冗談。仕事帰りの亭主を夕方までには向かえネーといけねーし。貴族ってのはホントめんどくせーわ」

「わかってて、一緒になられたのでしょ? マフィアの首領ドンという立場をたった一年足らずで放棄されたわけですから」と金色さん。

「言うなって。ヒャハハハ……」


 相当、まわりを振り回す人のようだ。


「我々はこれから用事がありますので、もうしばらくは残ります」

「おぅ」

「付き添いには、リリィーンを――? おい! リリィーン!」


 金色さんに呼ばれて仕方なさそうに前にでてくる。


「おお、リリィーン、久しぶりだな。今までドコいた? ああん?」

「ひっ!」

「まさか、俺のことシカトしてたぁあ?」

「いひえ!」

「そっかぁ、まぁ、馬車の中で、じっくり話そ? な!」

「ひぃいいいい!」


 リリィーンのバカは――馬車ぁにぃい♪ 乗ぉせられーてぇ♪ イー・チャーアッ・ータァー♪


『ヒャアア! ヒャハハハ――やぁっ、アアーっ!!』


 なんか遠くで悲鳴がした気がする。でも気のせいだな。


「さてと、問題は一つ片付いた。……次はキサマだ! なあ!?」

 

 金色さん、目を見開き、金色の魔眼でオレを睨みつける。


 やっぱ先ほどのこと怒ってらっしゃる。


「肉業者は来るだろう……だが、貴様、ことによっては覚悟しておけよ?」

「ひ、は、ハヒ」


 もしロクでもない結果になったらオレはどうなるんだろう。


「まぁまぁ、お茶でもしましょ。業者さん、いつ来るの?」

「時間てきには後三、四十分だろうが、結果はあてにできんぞ?」

「ちょうどいいじゃない。お茶してましょ――ね?」


 シスターの促しでその場は収まった……が?


「いざとなったら、苦しまないよう、わたしが急所を突いてあげるからね? 心配しないで?」

「(ハッ……ふぅ?)」


 さりげなくオレに耳打ちしてくれたローリィさん。


 まって? それって、つまりはゴーモンが待ってるの? そんでローリィさんが失敗に見せかけて、苦しまないよう、オレをキュウ――ってしてくれるってことなの?


 やっぱマフィアだよ。

 この人たち極道とか任侠とかだよ。

 魂しか見てネーよ!

 心臓ドキドキする。

 

 逃げ出すなら今しかないぞ?


 だが、しかし? 


 ココの子供たちの力になりたいんだ……


 その欲求のほうが圧倒的に強いんだ!


「上等だ。もし、失敗しても絶対諦めない。あの子たち、を……(救う? なんておこがましいぞ?)いや、あの子たちにせめてもの、希望を! 絶対のアキラメナイを! 伝える!」


 そうだ、そのあとなんて知るか!

 それが、ちっぽけなオレの上等だ!


 カッコつけたけど、オレ涙目で視界がボヤけてるんだよなあぁ……




 その後、業者さんが来て、解体場でお肉の見定め。

 社長と連れの社員が二人。

 オレ達、金色さんと、ローリィさん、シスターに、責任者としてロイシュがいる。


「社長、これ、A4いけますわ!」


 吊るされた大猪の肉をイジッてた社員さん、社長に報告。


「マジか?」

「解体されてるのがアレですけど、手当て上等ですし、肉質もOKですわ」


 やり取り聞いてたオレ確信。

 イケル。高い値で売れる。

 マグロみたいに数百万、一千万オーバーいくか?

 

「どれぐらいの値で引き取ってもらえますか?」ズバリ聞いてみる。

「んー……。全体で百五十キロ、よくみて二百キロ足らないくらいかな?」

「モツもありますが?」

「そっか、うーん。でも相場的には……」

「チビッコたちが苦労して……ケガ人まで出したんですよ?」

「あ、うぅーん……じゃあ……」

「はい――」

「よっしゃ! キロ、二千オクエンでどうだ!」


 オクエンはこの世界の通貨単位、オクを除けばエンである。基本、価値は円と変わりない。


 一キロ二千円? 全部で三、四十万円?

 確かに大金ではあるが、ここの運営資金には一桁足りないかも?


「今回は初の取引ということで、今後もご贔屓にしていただければ、ということでこの値にしていただきやす」


 それはどうなんだろう……。

 社長の様子を見る限り、買い叩いてるようには見えない。

 連れられてきた二人の社員はあきれたように笑っている。しかも皮肉っぽさはまったくなく『ヤレヤレ社長も人がいいよなぁ』といった様子。

 たぶん、思い切った価格だったのだろう。


 だが、それはオレの目標の十分の一でしかないんだ。

 がっくりしながら傍のみんなを……


 はああ!?


 みんな地面に腰落としてた。

 いや、金色さんとローリィさんは立ってた。

 腰落としかけの金色さんのお尻を隣のローリィさんがペシッと叩いている。

 姿勢を正す金色さん。

 マフィアの威厳をかろうじて保った。


「野生肉が三十万オクエン?」

「買ってもらえるの? ホントに?」


 ロイシュとシスター、いまだに疑ってる。


「無論ですとも、だってそれが私たちのお仕事ですから」

「だって、野生肉は寄生虫とか危険だからって、流通されないんじゃ」

「それはまた、随分昔の話ですね。二十年以上まえの話ですかね。元々は貴族を中心に流行っていたジビエブームですが、いまや平民までもジビエ、野生肉ブームなんですよ? ご存じなかったみたいですね」

「そうなんですか……」

「この大猪なんてまだカワイイもんでして――」

「カワイイ!? 大猪が?」

「いえ、そうではなく。価格てきなお話でということです。いまどき大猪なんて肉、めずらしくもなんともないですからね。平民ルートでしか売れません。もし、もっと珍しいモノならば貴族ルートで高く売れますけどね……」


「珍しい? じゃあ、さあ、オジサン――」ロイシュが会話に割って入る。

「ドゴンダとかは?」

 

 ああ、あの旨い大蛇か――


「ドゴンダ? はははは!」業者の社長大笑い。んで――

「見つけたら知らせてくれよぉ、坊や、百万オクエンで買い取ってやっから!」


 今度こそ、オレを含めて全員、腰を抜かした。


「百万オクエン……」

「そうだよ? 生きてればね。そんなもんだよ? みなさんまでどうしたんですか?」


 みんな事情を説明できない。

 かろうじて喋れるのはオレくらいか――


「この子たち、ドゴンダ、オヤツにしてフツーに食ってましたよ?」

「あーはっはっはははは! そりゃ、最高に贅沢なオヤツだ。うらやましい。オジサンだって、もったいなくて食べれないのに……わーっはははははは!」


 メッチャ、ウケテル。


 百キロ以上の大猪が三十万なのに、あの蛇一匹が百万円って……


「アレが……百万……」

「知らないとはいえ、私たち、いったい何匹、いえ、何百万を……」

「私なんて数十、数千万オクエンを……」


 金色さん、ローリィさん、そしてシスター、地面で膝を抱え込んだ姿のまま、なんか真っ青になって呟いてた。


 トラウマ――になった、かな?



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