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5.出発


 旅団一族から食事をもてなされる二人。

 差し出されたものを端から平らげるチィルール。

 隣のタローは、遠慮のないチィルールの食べっぷりに不安。


(助けてもらったうえに食事まで―― 俺、お金持ってないけど大丈夫なんだろなぁ……)


 昨日は布団のうえで一人で食事した。だから遠慮はなかった。飢えていたのもあったが。

 いま料理の並んだ座卓のまわりに他にいるのは、旅団長のお爺さんと貫禄のある着物をまとったオバサンが数人。

 あとテーブルそばから料理を提供してくれる三十歳くらいのオジサン。

 でも二人以外、誰も食事に参加していない。

 だからといって不穏な感じもまったくないのだ。

 それどころか皆チィルールの食べっぷりに満足そう。


「さあさ。遠慮なくどうぞ」

「ありがとうございます。ですが、みなさんは?」


 食事を勧めてくれるオジサンに恐縮するタロー。


「掟によりお客人とは食事をしません。ですが御もてなしはいたします。昨日も説明したとおり、我々は外部の者とはほとんど接触はしません。あなた方とも名前も教えあわないほどです。ですが礼儀はわきまえております」

「なるほど、では遠慮なく」


 遠慮するほうが失礼なパターンのようだ。

 タローも安心して食事をするのだった。

 その後、チィルールだけがそのテントに残り、長老達とお話。


 その間、タローは外で子供達と遊んだ。

 

 客人が珍しかったのであろう。子供達のほうからタローにちょっかいを掛けてきては姿を隠すのだ。

 だから自然とタローがオニの、オニごっこの開始だ。しかもずっとタローがオニである。子供を捕まえてコチョコチョくすぐってたら、他の子らがキックとかしてきてその子を逃がすのだ。だからタローはまた再び「ぐわー」とか言いながら子供を追っかけるのだ。


「ぐわー」

「きゃぁあぁ・っきゃああ!」


 きゃっきゃと、はしゃぐ子供達。


 しばらくすると、そこへチィルールが姿を現した。


「タロー、馬を譲うけることになった。それに乗って街まで向かうのだ」

「馬、買ったの? けっこう高いんじゃないの」

「まぁ、それは、ツケだ」

「へぇ(ツケで買えるような信用がこのチビッコ剣士チィルールにあんのか?)」


 疑問を感じるタローの視界にチィルールが腰に帯刀した剣のツバ部分がキラリと輝きを放った。


「……(なんだよ?)」


 しかしどっちにしろ、迷子はもうコリゴリだったので、馬で道を行けるならそれにこしたことはなかった。だから疑問も奥に引っ込んだ。


 そして早々に馬の準備は整った。

 急ぎ足であったが、彼ら旅団も先を急ぐのだった。

 この地にテントを設営したのは二人を救助したための一時的なものであった。

 彼らはこれから、春先に北の牧草地一帯に放牧した羊やヤギの面倒をみてやりに行かないといけないのだ。

 

「皆さん、本当にお世話になりました」


 馬上からタローのお別れの挨拶。馬に乗る前にもちゃんとお礼やお別れは言ってはあるがそれでもまだ足りない感謝の想い。


「君達は命の恩人だ。またどこかで会おうね」


 子供達は、にこやか。しかも、ちょっと誇らしげ。寂しげな様子はまったくない。無限だと思っている寿命の中で再会など容易い話だと思っているのかもしれない。


「で! では、行くほぉ!」

「え? ああ」


 テンションがヘンなチィルール。

 手綱を握るのは彼女だ。

 だってタローは馬の操作なんて知るよしもない。

 そして後ろから小さなチィルールを抱く様は奇妙な様相ともいえる。

 なぜなら戯れで親が子供に手綱を握らせているかのようだからだ。


「ハイヒョォオオ!!」


 手綱をパッチンと叩きつける。


「ヒッヒヒーン!」


 その勢いが強過ぎたのか、馬は後ろ二本足で立ち上がるウィリー状態。

 その後、猛加速した。


「みなさーん! さようならー! またどこかでー!」


 タローのその言葉も彼らに届いたかどうか、だって馬の猛加速によって距離がグングン開いていったからだ。



彼らは出会ってしまった……ソレに……

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