魔王襲来
伏線回収のしかたが分からなくて悩んで結局見切り発車です
血染めの天秤、マフィアのアジトとて来客はある。
待ち合わせの大広間に入るアリス。
「ィよーっ! 元気だったか?」お気楽な声がくる。
「ええ、まぁ」と、来客に答えるマフィアの首領アリス。
アリス、彼女はこの組織の最高権力者である。
だが来訪者は失礼にも、彼女の前で、大広間のながーいテーブルの上に寝そべってる。
「なぜ、テーブルの上に?」
「いや、だってお前・・・、ほら俺はもぅ首領じゃないし、でも、お前の下座に座わるのも嫌じゃん。しょーがねーじゃん」
来訪者は前代の首領スペーシュ。
男みたいな名前。でも本人は気に入ってる。
名無しだった自分に勝手に自身がつけた名といういわれもある。
オレンジ色の髪の毛。パーマしてるのに手入れしてないから、ピンピン跳ねてるし、カールもあさってのほうに向いてる。昭和時代のヤンキーネーちゃん姿だ。
「別に上座に座ればいいかと思いますが?」
「バッキャロ、テーブルにあがりたかった口実だろが。相変わらず分かってネーな」
「その、ニブチンのわからずやを、首領にしたのは誰でしたか?」
「俺だけど? なにかあ? ひゃひゃひゃ・・・」
(あいかわらずのご様子で・・・)
貴族に嫁いで引退した先代が何用なのか。
できれば、あのことはスルーしてほしいところだが――
「漂着者・・・いるんだって?」
あぁ――図星だ。
「いました・・・が! 放逐しました。街が大混乱になったもので……」
「ふぅーん。いたんだ。ふぅーん」
やはりか、この人はまったく!
アリスは狼狽する。漂着者がいたとかいないからとて、この人には何の関係もないはず、なのにでも、この人はやってきた、ただ単に興味本位で――
「いるよね? ねえ?」
「はぁ? 放逐しました」
「ふぅーん。施設のほうとかに?」
(察してくださいよ)
アリスは知っている。
この人は、自分の『たーのしー』のためだけに生きている。
関わられたらロクなことになりかねない。
「どうされるおつもりで?」
「べつに?」
「じゃあ、お引取りくださいね?」
「はああ! 会いたいツッテンダロ!」
(言ってないし)
「会わせろヨ! ああ?」
「会うだけなら」
「ヨーシ、久々にチビどもの相手もしてやるかー」
(波乱の予感というか、その展開しか予想できない)
だが、この人の行く手を遮ることは不可能だ。そのことも十分知っている。
この人はハリケーンだ。自然災害以外のなんでもない。みんな耐えてくれよ。
この世には人の手ではどうにもならないこともあるのだ。
――――――
教会の児童施設。
児童たちは授業や畑仕事。
午後の、いつもどおりの、ゆったりした時間。
だったが――
(なんだ? この、いやな予感は?)
作業中、学長室に呼び出された第三小隊の隊長ロイシュはその鋭敏な感覚から事態の不穏さを感じ、戦闘中の警戒モードになっていた。
怒られるようなことも、賞賛されるようなことも、最近なかったはず。
あるとすれば、大猪の件だが、とっくに窘められて終わった話のはず。
この妖しげな気配はなんだ?
学長室の扉越しに伝わってくるソレ。
でも、ここは学長室だ。
中からも他愛もない会話、その雰囲気。
なにかの間違いはないはず。
けれど万が一に備えて腰のダガーを確認。
「失礼します」
扉をノックして中に入る。
「ヨォー! ロイシュ! 久しぶりじゃん!」
「ヒ!!」
ロイシュの予感は的中した。
そこに先代の首領のスペーシュがいた。
「ロイシュ、すまんな」現首領アリスもいる。
「こんにちは、ロイシュ君」副官のローリィさん。
「スペーシュがータロー君にー会いたいってー」とシスター。
そんなことよりも!
「ロイシュぅう。久々に可愛がってやるぜぇ? ほら、来い!」
両腕を広げ、待ち構えているスペーシュ。
だが、それはワナだ。ロイシュは知っている。
けれど、逃げれば、もっとヒドイことに――
昔の悪夢がよみがえる。
だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず!
「ぅ、ぅうわーいっ! スペーシュ、おネーちゃんぅ・・・」
できるだけ甘えた声をあげ、スペーシュにダッシュ。
相手の腕がコチラをロックする瞬間を見極め、左下25°の死角に滑り込む。
「!」(いけるか?)
「?」(おぉ?)
ロイシュの動きにスペーシュも即座に反応。
左から抜け過ぎようとしたロイシュ対し、咄嗟に右足を後ろからクロス、かかとで引っ掛けようとする。
「あ! (だが、読んでいた!)」
ロイシュは、わざと引っかかって、あえて転んだ。
受身を取りながらゴロゴロ転がった。
「うーわー。(そして、いける!)」
スペーシュは自分を舐めている、とロイシュは予想していた。
転べば追撃はないと踏んでいた。
実際、動きはない。予想通りだ。
「とお! (あの頃の俺とは違うんだぜ!)」
ゴロゴロ転んだ勢いをのせ、ロイシュはジャンプ!
行く手、正面はガラス窓。
『ガッシャーン!』
そのまま、学長室の窓をぶち破り、見事外へ脱出。
「シー・キュー・Z! シー・キュー・Z! 魔王降臨! 非常事態だーっ! 第一小隊、非難開始! 第三小隊は各自、Z体制! シー・キュー・Z! シー・キュー・Z!」
ロイシュの絶叫。それは最大限の警報。
一間をおいて、校舎や畑から子供たちの怯えた悲鳴。
平和だった施設が一瞬で戦場に変貌した。




