児童保護施設での生活1.3 中編
(ダメだこりゃ。やっぱ、一発殴って退場させよう)
オシッコちびる前にどっか端っこのほうへ置いておこうとしたのだが、突然大猪目がけてダッシュするチィルール。
無論、大猪こそ望むところ、この挑戦に受けて立つ。
「ぬおおお!」
「ブヌオオ!」
チィルール、大猪の牙を握り受け、お互いがっぷりと正面からぶつかりあった。
「どすこーい!」
ドンっと衝撃音。
互角にぶつかり合う両者。
普通なら小さなチィルールなんて簡単に弾き飛ばされるとこだが、マジックエールの能力で力もアップしているようだ。
正直オレはこのマジックエールの能力を持て余している。なにをどうすれば、どうなるのかハッキリと分からず、自己流で適当にやっている。いつか誰かに使い方を習わないと、こんな窮地にまるで役立たずだ。
「ふんぬああ!」
「ブブブゥ!」
「ぬおお!」
「ブブッブブッ」
(やっぱバカには、力でが一番しっくりってことだな。今度から魔物とかにコイツ自体を投げつけてみようか? 剣抜くまえに)
しかし、すこしずつチィルールが押され気味、腰が入って沈んでいた姿勢がだんだん起こされ、のけ反ってきた。
「チィルール!」
「ゴンのおおっ! 豚ごときに負けるかあああっ!」
「ブっヒっヒ」
だが大猪、勝利を確信。
いったん姿勢を落とし、相手を弾き飛ばす為に力を溜めた。
そして、いっきに勝負を決めにくる。
「ブヒイイイ!」
「なめるなぁ! のおおりゃああ!」
「ブヒ・・・ぶひ?」
大猪は驚愕した。
力を溜めて一気に解放したのはオノレだけではなかった。
こちらの手を読んだ相手も同時に力を溜めて一気に解放したきたのだ。
結果、今チィルールは大猪を頭上に掲げている。
「チィルール・・・お前」
「ネーちゃんスゲエ!」と周りも驚いた。
だがちょっとよろけ気味で危なっかしい。
「タ、タロー、も、もう一発、入れてエぇぇ!」
魔力切れか?
「すぐ入れてやる。もうすこしガマンだ」
大猪がコッチに倒れてこないか用心しながらチィルールに近づく。
そして、気合充填。
「マジック・エール!」
オレはチィルールのケツをブッたたいた。
光を放つチィルールのケツ。
「ヒィにゃ!」
クルリと大猪を掲げたままコチラを振り向くチィルール。
そして、大猪、オレに向かって振り下ろしてきやがった。
ドドーンと地響き。
同時に大猪から『ゴキンッ』と首の骨がへし折れる音。
首をネジられながら、地面に叩きつけられれば、太い骨でもさすがに折れるだろう。
「あ、あぶねえぇな!」
「こんな状況においても・・・貴様のスケベイ根性はあああ!」
「違う、頭がふさがってたから、ケツしかねーだろ?」
「なんでその二択なのだ。肩だろうと背だろとあろうが」
「だって髪の毛で隠れてるじゃん」
「え?」
それは何か関係があるのだろうか、と困惑している。
じつはオレもそう思う。
でもなんか女の子の髪の毛ってかってに触っちゃだめな気がする。セクハラとか。
となると、やっぱケツになるわな。
「タッシュ! やったぜ、ニィちゃんたちがやってくれた。だからもうちょい気張れ!」
リーダーが傷ついたタッシュに声をかけた。
「ゴメン、みんな、俺のせいで危険な・・・」
「ああ? 聞こえねーぞ! もっと大きな声だせ!」
リーダーがキツく言葉を投げつけた。
「ィエス、マァ・・・みんな・・・ゴメン」
「まだだ! しゃべれ! シスターが来るまでは闘えっ!」
タッシュの容態は、危険だ。
素人目でも分かる。
腹部には薬草シートが山になるまで張られているが、それが吸収される気配はない。
顔面は土色。
出血が止まっていない?
HPもゼロ状態なのか。
「楽しか・・・た。ありが・・・」
「おい! ダメだ! おい!」
タッシュの意識がなくなった。
「ヒールだ! 頼むっ、フィルル、シスターにヒーリング習ってたろ!」
リーダーが大蛇を捕まえてきた少女に懇願した。
「だめ、ムリ・・・」フィルルはなぜか拒否。
「お前しか、もう・・・タッシュ、死ぬぞ!」
「フィルルに責任押し付けないで!」
フィルルと一緒に大トカゲ捕まえてきた少女が抗議。
「キルールまで、なに言ってるんだ。仲間が死ぬぞ?」
「やめて、ヒーリングはそんな簡単な魔法じゃない!」
「じゃあ、このまま、タッシュが死ぬのを?・・・クソっ! 俺が女なら!」
魔力が使えないこの世界の男は何度もこういう苦しみを味わっているのだろう。
「ワタシが、ヤリましです!」
進言したのはララリー。噛みかみで、必死なのが伝わってくる。




