この世界で唯一の潜水艦『ソ・オーレ・キタード・コイショ』
敵潜水艦の様子。
「障害、見当たらず!」
「よし! 浮上!!」
潜望鏡で海上周囲を見渡したのち、潜水艦は浮上を始める。
「浮上します、速度、40、速度、40」
「よし! 周囲、音紋、確認せよ! 気を抜くな!」
「……イェイイェイ・サー!!」
艦長の無茶な命令にも、艦の目であるソナー員は従うしかない。
潜水艦から排出される自らのバラスト水で、周囲の音など聞き取れるはずもない。
ソナー員はこの渦まき音越しに周囲を探知しろと言われても、無理な状況。
それに、この世界では唯一の潜水艦であるはずの、この『ソ・オーレ・キタード・コイショ』に追随できる船などいないはずなのだ。
慎重すぎるネイル艦長。それは優秀なはずだ。けれど?
元々、この新造海中戦艦『ソ・オーレ・キタード・コイショ』は、バグ出しもされていない事実上の実験艦なのだ。
無論、そんなこと上からは艦長も聞いていない。最新鋭の未来兵器と紹介されはしたが、口先だけの言葉。優秀な彼女は元々信用などしていない。
だから万が一の為に、小まめに浮上する。その後、エンジンを止め、各部チェックを施す。
安全が確認されたなら再び潜水を開始させるのだ。
そしてマニュアルにある安定出力の90パーセントまでしか、絶対に稼働させない。
そんな苦労の果てに、この永い航海を達成できているのだ。
事実、航海中に、計器類の表示が34パーセントも狂っていたことを突き止めた。
計器を信じて潜水していたら圧壊の危険性もあったのだ。
おそらく同様の秘密(欠陥)もまだまだ存在するはず。
その洗い出し、今や書類、数百ページにも及ぶ。
「なにか異変は!?」
「……左舷、やや、傾き……」
「解明せよ!!」
「アイッサー!!」
艦橋に緊張が走る。
この艦橋のクルーはもう、この船に欠陥があることを周知しているのだ。
「サー!! 伝達!! 機関部より!」
「なにか!?」
「バルブ異常!」
「っ程度!! 復帰は!?」
「……」
「……」
「復帰は、浮上後、30分! でとのことです」
「つっ! わかった。急がせろ!」
「アイッサー」
(こんな未知の兵器、命を預けられるほど、信用できるものか!)
でも、そしてそれが、凡庸の一般兵にはそれがわからない。
『こんな無敵最新秘密兵機で、なにをグズグズしているのか?』
『俺ならもっと有用に扱えるのになぁ』
『きっと艦長は馬鹿に違いない』
『それなー』
『ワハハハ』
そんな無責任なことを言ってる凡人たち。自分たちが、彼女に命を救われていることがわからないのだ。馬鹿ゆえに。




