アリスちゃん
オレ達は御屋敷内の廊下を歩いている。
あれから納屋の牢屋から出された後、オレはチィルールに「お仕置き」称してケツに蹴りをバンバン入れられるは、リリィーンには棒で顔をグリグリされるはでちょっとしたイジメ状態。でも・・・
「女二人が、かよわい男によってたかって乱暴するものではない」
と金色蛍さんの助け舟で救われた。さすが首領、暴力団でもトップクラスなら紳士になる?
(なんかもうお世話になりっぱなしになってるから、これから理不尽な要求されても断りにくいなあ)
もうオレ、いっそ彼女らの言いなりになって働くのもアリなのかも、とか考えてる。
だってチィルールとあてのない冒険はキツイし。もうイヤだし。文明の中で暮らしたい。
冒険とかサバイバルとかいうと、アニメ世代やゲーム世代はわくわくするのかもしれない。多分、現実にいたときのオレだってそうだろう。しかし、経験すると分かる。
だって、夜寝て朝起きた時、全身をアリに覆われてた気持ちが分かるかい? おぞましい感触に悲鳴を挙げのた打ち回る。そしたらあいつら一斉に噛み付きやがった。絶叫を挙げてチィルールと一緒に訳も分からず走り出し、たまたま近くにあった川に飛び込む。それが幸いしてアリたちは流されていくが、あいつらパンツの中にまで入っている。オレにはそこまで被害はなかったが、チィルールのほうはヒィヒィ言いながら必死に股間を弄ってる。可哀想だがオレが手出しできる領分ではないわな。
他にも夜、ふと気付いたら、チィルールが大蛇に丸呑みされてる最中で、蛇の舌を枕にスヤスヤ寝てたり。あのときはさすがにどうしようかと思ったが、新手の敵のオオカミ(?)と協力してなんとかコトなき得た。あんな奇跡的な経験はもぅ絶対したくない。
(きっとココがオレに用意されたハーレムなのさ)
衣食住を保障されたこの御屋敷で女の子たちと生活するって、まさに・・・
豪華な御屋敷のなかでマフィアの女の子たちと「キャッは・うふふ・イヤーン・もおぅ」と生活するのがオレの運命。でもその台詞言うの、たぶんオレ。
それでチィルールがキーッてヤキモチ焼いて・・・
ようやく、オレも主人公っぽくなってきた。と思うのだがそれより気になることが・・・
(でもヘンだ? なんだこの違和感・・・)
通路を進むオレは奇妙な感覚。
それはアニメちっくなこれからの展望のことではなく。目の前の状況によるもの。
(この建物ってなんかヘンだ)
豪華な造りの御屋敷のはずなのに、なんか貧乏くさい。
豪華な屋敷自体、アニメとかでしか見たことないから、実際に実物を見ればこんなもんだと、最初は思ったのだが?
(壁とかもチャチな壁紙じゃなくて、ちゃんとした漆喰なんだけどなあ?)
ハリボテの建物というわけでもないのに、なんか貧乏くさい。
「無駄に広くてすまんな」と金色蛍さん。
(そこ、あなたの立場だと自慢するとこなんじゃ?)
「ここだ。普段は滅多に使わんがお客人の為にはな?」
到着した部屋の前、そのドアを開け、中に促される。
(あ、これ! やっぱあるんだ。初めて見る)
広い室内の真ん中にある長ーいテーブル。
「朝食でも取りながら、話をしよう・・・好きなところへ座ってくれ」
と、言われて当然のように上座に座るチィルール。
「おい、そこ上座なんじゃ?」
「お、そうか。そうだったな・・・」
最初コッチにはそんなマナー自体がないのかと思ったが、このロリチビ助は・・・
「まぁ、どこでもいいさ。ワタシ自身マナーには疎いからな」
金色蛍さん、上座に座らず、オレ達の対面へ腰掛ける。
(ヤクザとかマフィアってメンツを気にするもんなのでは?)
ますますこの人が分からない。
「お待たせー」と部屋に入ってきた女性。
ピンク色っぽい栗色の髪。セミロングだが後ろで束ねている。くせっ毛がひどいらしく、束ねているにもかかわらず、ピンピンと髪の毛が跳ねまくってる。
にこやかな表情は、柔らかいイメージ。
お堅いイメージの首領とは正反対だ。
(ゆうべの副官さんだ)
オッパイでわかる。
夕べは仮面してたけど、オッパイは隠しようがない。
あの見事な張り出し、いまにもミサイルを発射しそうな危険物である。
「いや、ちょうどいい。すまんな、ローリィ、こんなことをさせて」
ローリィ? 相応しくない名前。だって、すごく優しそうで保母さんみたいなオネーサンだから。チィルールにならともかく。
ローリィさん、ワゴンを押ししながら部屋に入ってきた。
「なに言ってるの、これくらい・・・あ、また、そこじゃないでしょ? あなたドンなんだから!」
「あ、いや、すまん・・・」
首領の金色蛍さん、ローリィさんに怒られてあわてて上座に座りなおす。
「いいかげん、ドンの自覚もってよね、アリスちゃん!」
「ヒ!・・・おい!」
「別に気にしなくて大丈夫って言ってるでしょ?」
金色蛍さんの名前「アリス」ちゃんか、たしかにカワイイ響き、こっちでもそうなんだ。
でもそれよりマナーを知っててワザと対面に座ったそれは。
(コッチに気を使ってくれてたんだろうな・・・やっぱ、この人たちいい人だ)
ローリィさんがワゴンで運んだ朝食。
皿に取り分けられる。
パン二つと、ポタージュのスープの二品。
(ん?)といぶかしむ。
でも金色蛍のアリスちゃん、うやうやしくお祈りを始める。
チィルールもソレをみて、あわてて掴んだパンを皿に戻し、なんかお祈りを始めた。
でも、オレ日本人。「いただきます」以外知らない。
しょうがないので、「なんまんだぶぅ・なんまんだぶぅ」二人のお祈り済むまで続けた。




