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奇跡の力


 食事中、突然に叩き割られた窓ガラス。

 和やかだった空気が一変した。


「なっ!?」


 とその場の誰となく漏れた声。

 椅子から腰を浮かせ中腰状態。しかし……


「はぁ」


 と息を吐くかのような声でみな椅子に座りなおした。

 ガラスを割った犯人はボールだった。

 さっきグランドで子供達が玉蹴りに使っていたものだ。

 襲撃ではなくただの事故だ。

 だがそれでもジラクィは再び立ち上がると、ボールを拾い、窓に向かう。


「コッラー! クソガキどもー! 校舎近くで玉蹴りすんなって言ってんだろーが!」


「校長先生、ごめんなさーい」

「すみませーん」

「ごめんあさーい」


 ジラクィは海賊の頭領でもあるが、この学校の校長でもあった。

 素直に謝る子供達。


「モノを壊すことよかな!? 壊れたガラスでケガするヤツがいるかもしれねーことに気をつけろよ! いいな!!」

「はーい!」


 ボールを投げ返して、その場は終わり。のはずであったが――


「もー、クーねーちゃんの馬鹿力でぇ」

「イイルカみたいに空振りしたほうがマシだよね」

「だよねー」


「ん!?」


 とジラクィは先ほどの視界の様子を思い返した。

 すると、いた。端の方にクィールとイイルカの姿があった。

 まさかいるはずないと思って見過ごしていたが、やっぱいた。

 あわてて窓から様子を覗きなおすと、子供達に混じって元気よく玉蹴りしているクィールが!


「なにやってやがんだー!」


 重病で床に伏せてるはずの娘クィールが校庭で走り回っている。

 母親としては窓枠から外へ飛び出し、娘に向かうのは当然の流れ。


「なにやってやがる!? ちゃんと大人しくしてなきゃダメだろ!」

「病気もう治った」

「虫歯じゃねーんだぞ? 痛くないから治ったじゃあるめーが」

「だってそこのお兄さんが魔法を使って」

「男が魔法!?」


 ジラクィを追い、その他の一行も校庭に飛び出していた。

 その中の少年に困惑の視線を送る。


「セイヤは漂着者なのだ」


 チィルールがセイヤの正体を明かした。異世界からの漂着者は女しか魔法が使えないこの世界で一つだけ魔法が使えるのだ。それが『マジック・エール』の力。

 先程中座していた時にセイヤはクィールの元に向かい、彼女にマジックエールの力を試したのであった。

 それは無事成功したに見えたが、まさか彼女がいきなり校庭で走り回ってるとはセイヤ自身も思ってもみなかったことである。


「奇跡の魔法マジック・エールか……どこかで聞いたことはあったが。もうクィールは大丈夫なのか?」

「オレは医者ではないので保証は出来ませんが、魔力の竜脈に穴があったのでその部分の流れを別方向に向けました。だから魔力の抜けはなくなりました。が、そのせいで今度はどんな作用が起こるかは分からないというのが正直なとこです。無責任ですみません」

「寿命は、命は……」

「生命力の源である魔力の抜けはなくなったのでそれは多分……」

「そ、そうなのか……」


 娘を見つめ直すジラクィ。


「ダ・イ・ジョーブ!!」


 そう叫びながら、なぜかヒーローみたいなキメポーズするクィール。まわりの子供達がヤンヤ・ヤンヤと大はしゃぎ。


「あ、ああ……」


 ペタンとへたり込むジラクィ。無理もない。母親として、長年の憂慮があまりにも突然解決して脱力したのだ。


「よかったなダンナ。茶番じみた話のオチだが、これでヤバイ話には乗らなくて済む」


 とマイルミールの台詞。


「それはまた別の話さ」

「オイオイ」

「子供みたいな約束破りはできねえ。海賊だとしても社会人としてケジメはちゃんとしねーとな」

「目的は果たした。今更なんのメリットが――」

「姫様は奴らに引き渡す」


 マイルミールの台詞を遮るようにジラクィの台詞。

 そして続いた次の台詞。 


「……その後で、奴らの船を襲う。だってアタイらは海賊だからな」


 ニヤリとしたジラクィ。

 それは一旦チィルールを敵に引き渡した後で再び誘拐(救出)するという意味。

 義理を果たして面子を守ったうえで、自分達の利益は見逃さない。それが海賊の流儀。

 カッコつけた回りくどいそのやり口にはマイルミールも呆れながらも脱帽するしかなかった。



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