海賊風ピザとスープ
海賊の島。
さらわれて来たチィルール姫殿下。
とある部屋で、海賊達に……
「フグーッ! ヌグー!」
苦しそうに胸元を掻き毟るチィルール。でも……
「チィーちゃん! はい、お水」
ノドに詰まらせた食べ物を水で流し込むチィルール。
「すまん、ルルーチィ」
隣のルルーチィに礼。
「ハハハ、そんなにがっつかなくてもお代わりは充分ある。ゆっくり食いな」
海賊頭領のジラクィ同席での食事。
他には別の海賊組織の若頭マイルミールがいた。
彼女が仕えるイイルカ嬢のためにここまで来ているのだ。
イイルカが友達でジラクィの娘クィールに付き添っている今、居場所なく一人でバツが悪そうに茶を啜っている。
「ん? セイヤの姿が見当たらんが」
「セイヤは野暮用とか言ってたよ」
「何事か?」
「食事中には――」
「なんじゃトイレか」
「チィーちゃん――(この子本当にオクエンの姫様なんだろうか。たまに不思議になる)」
そんなルルーチィの呆れた思惑とは関係なく、当のセイヤは床に伏せているクィールの部屋へ出向いている最中であった。
「しかしこれは旨いな」
平べったいパンに色々な具材が乗っかっていてオーブンで一緒に焼かれている食べ物だった。
「チーズを使わない海賊風ピザさ。海苔と魚醤がいい風味だしてるだろ」
「ノリ?」
「表面に塗ってある黒いヤツさ。焼くといい匂いが出るんだよなコレが」
薄く延ばして乾燥させる海苔ではなくて、回収した海苔の海草を煮詰めるタイプのモノだった。この一帯ではバターの代わりにパンに塗って食べたり、もちろんごはんにも乗っけて食べたりしている。
「今まで味わったことのない美味である」
「ハハ、姫様に褒められるなんて光栄だねえ。そっちのスープはどうだい?」
「スプーンがないが?」
「椀を持ち上げ、直接啜るんだよ」
「なんと。ふむ……オオッ! 旨い! なんの味か、これは?」
「魚のアラで出汁を取ってるのさ」
「アラ?」
「魚の内臓だ」
「ィ……」
「ワハハハ。でも骨から良い出汁が取れるんだぜえ」
それを聞いたルルーチィ。
海賊の施しなんてと食事には手をつけていなかったのだが、慌てて椀を手に取りふぅーふぅーと息を吹きかける。ネコ族の血が混じっているハーフビーの彼女はアツい物苦手。でも立ち上ってくるその香気に辛抱たまらず、舌を伸ばしてピチャっと舐める。
「ア、アッツ! でも、コレ美味しいー!」
「それはよかった。晩飯にはその出汁を堪能できる浜鍋料理の予定だから楽しみにしておくといい」
「くぐ……」
突っ張り通せなかったルルーチィ、ちょっと赤面。
「おいしそうなの食ってるな」
そこへセイヤが登場。
「俺のぶん、まだ残ってる?」
「おおセイヤ。長かったな。いっぱい出たか?」
「ちょ、チィーちゃん」
ジラクィに席を指先でうながされ着席。
「へえ。ピザにお吸い物とは斬新な。いただきます。あ、旨い。海苔風味の海鮮ピザ。海苔なんて久々に味わった。最高ー」
誘拐されてきたにも関わらず、歓待されてノンキな彼ら。現代の現実っ子はこんなものかもしれない。
そんなゆったりとした状況が一変する事件が次の瞬間起こるのだった。
『ガシャン!』と叩き割られた窓ガラス。
緊張が走る。
そして、続く。のだった。




