クィールとイイルカは幼馴染
(あ、生きてる……)
意識を取り戻したクィールは、自分のベットの上でそう感じた。
「クィール、大丈夫か?」
「あ、イイルカ――まだいたんだ」
「お前なあ」
「ウソウソごめん(ってことは今回はそんなに時間が経っていないんだ)」
病状が悪化した近頃は、数日間、意識を失っていることもあった。毎回意識が遠のくたびに次はどれほどの時間が過ぎているのか、それともそのまま死んでしまうのか、彼女は不安な気持ちになるのだった。
「イイルカ――、ケホケホ」
「ん?」
「あのね、ケホケホ」
「なにケホケホ言ってやがんだ?」
「病弱な私のキャラ付けよ、ケホケホ」
「そういう病気じゃねーだろがっ」
「ただの語尾だから気にしないでケホケホ」
「うざいわ」
でもいつものクィールのお調子に安堵するイイルカでもあった。
「あそこの樹の枝に一枚だけ葉っぱが残ってるでしょケホケホ」
「まだ続けるんかよ」
「あの葉っぱが散るとき、私の命も散ってしまうのよケホ」
「さいですかー」
窓から見える樹の枝に一枚だけ残っている葉っぱ。
風に揺らいでいる。
そこへ一際の突風。
しなった枝からプチンと千切れる葉っぱ。
どっかに飛んでいった。
それを見送った室内の二人……
「ガクッ!」と言って、突然脱力するクィール。そのまま動かなくなった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……おい」
「……」
「な、息してない!?」
「……」
「ヤバイ! オイ!! 心臓マッサージ? 誰か!? いや呼吸をっ」
クィールの鼻をツマミ、口を近づける。
「きゃああああ!」
「うわああ!」
突然跳ね起きたクィール。
「イイルカのエッチ。キスしようとした。変態」
「な? バッカ! 人口呼吸だ。なにがエッチだ」
「子供の頃も、寝たと思って私の胸をこっそり触ってたし」
「ひゃあ!?」
「自分のと比べて勝ち誇ってたみたいだけど、今じゃ私のほうが大きいし」
「なっ! そんな違わねー!!」
「じゃあ? ちょっと触らせてみなさいよ」
「ひっ? やめろーっ」
モミモミした手がイイルカの胸に伸びてくる。
「お相子でしょお?」
「どっちがエッチだ。バカヤロウ」
「イイルカのほうですぅ」
「お前、もう寝ろ! 病人なんだからジッとしてろ!」
無理やり布団を被せるイイルカ。
そして顔半分だけ布団から覗かせるクィール。
ひと段落。二人、落ち着いた。
「ったく、お前はいつもいつも。アタイをからかいやがって」
「だってそれが私の生きがいですもの」
「そっか、じゃあアタイがいればずっと生きてられるな」
少し沈黙する二人。
「それは、無理ですわ……」
「クィール――やめて」
「だって、今晩の夕食で食中毒になったイイルカが死ぬかもしれませんし、そうじゃなくても、今夜オネショしたイイルカが死亡するかもしれませんし。人生、一寸先は闇ですわ。ウン」
「アタイのほうがっ、か? でもオネショで死亡って、なんだ!?」
「ふふふ、イイルカらしくありませんか?」
「あるかーボケー!!」
ケタケタと笑うクィール。
ふてくされ顔のイイルカ。
そんな二人。
昔からだった。
「まぁまぁ。こんなヤな奴、いなくなればセイセイするでしょ?」
「……っ」
「イイルカも笑い話にすればいいのよ。……昔、あんな困った奴がいたんだって、新しいお友達にね」
「……」
「未来は楽しくね。泣いちゃダメよ?」
「ケ、泣くかよっ」
「……」
クィール、イイルカに手を伸ばし、彼女をたぐり寄せた。
「泣いてんじゃん」
「泣いて、っない、クフ、ックフゥ、うううう」
「ゴメンね……」




