海賊の島
船は島に到着した。
海賊船がアジトに帰島したとも言える。
が、ここには堅牢な城壁も禍々しい砦も存在しない。
普通の岸壁のバースに接岸して人々が船を降りていくだけである。
ありふれた小さな港。それでもフェリークラスの船を停めることができるサイズ。
港設備は大きな倉庫が二つほどあった。他には何もなさそう。
その傍には大衆食堂。二十人くらいは入れそうな店。軒先には網やモリ、浮き輪などが雑多に並べられているが、値札が付いているのでこれは販売商品のようだ。漁具店兼業の食堂らしいが繁盛してないのは、そのオンボロな外見からも認識できる。
「いつもはそこで一杯引っ掛けるんだが今回はマズイよな」
海賊頭領ジラクィの台詞。
チィルール(姫)とそのお付きの二人、セイヤとルルーチィを誘拐してきたのだ。ノンキに酒を呑める状況ではない。
そして他にも――
「さっきバナナ食ったろ」
「う」
「うっ」
セイヤの発言に反応したのは、物欲しそうに食堂を眺めていたチィルールと、成り行きで着いてきた別の海賊の娘イイルカ。
「イイルカ、酒は勘弁してください。後の始末が大変なんですから」
イイルカの付き添いであるマイルミール。
「なんだそれ」
「酒癖が悪いんですよ」
「そんなことない」
「覚えてないだけですよ。まったく」
「あのー、お二人は?」
彼女らに口を挟むセイヤ。
「ああ、オレはマイルミール。こっちはイイルカ。別の海賊だが今はちょっとした付き合いでな」
「お前こそなんだ?」
「オレはセイヤっていいます」
「アアーッ?」
(うあー睨みながら顔近づけてきたよー昔のヤンキー挨拶だよねコレ。確か目線を避けたらよかったかな)
「けっ」
目線避けて正解だった様子。
「そっちのネコちゃんも、ギロギロと周囲を探らなくたって、後で島を自由に動きまわればいいぜ。どーせなんもない島だし、船だってここから大陸までいけるのはさっきまで乗ってたヤツしかないからなあ」
「ネコちゃんじゃない。ルルーチィだ」
「あはは、まあ後でじっくり散策すればいい。脱出できる方法なんてないからなあ。ただ間違っても小型船で沖に出るなよ? ここらは潮目が複雑で至る所にウズシオがあるからな。地元民ですらたまに死亡事故になるくらいだぜ」
「くうっ」
ジラクィに思惑を見透かされたルルーチィ、頬が赤い。
「しばらくはこの島に滞在してもらうことになる」
「使者は今ここにいないんですか?」
「いないねえ。二、三日内にはくらいには来るはずだけど」
「二、三日――」
「状況に先手を打ちたかったからな。だからワザワザよその縄張りにまでシャシャリ出たってわけよ」
「先手? あなたにはなにか思惑が?」
「さあねえ(ま、イキナリ拉致られてそのままよりも、すこしは考える時間があればな。脱出手段を探るなり軟禁される覚悟を決めるなり自由に時間を使えばいい。引き渡した後で逃げられてもアタシらの責任じゃねーしな)あははは」
「?」
誘拐されてきたセイヤ達に、そんな海賊頭領のちょっとした慈悲心なんて分かるはずもなかった。




