マフィア『血染めの天秤』
「オイ! 貴様ら・・・」
金色蛍さん。
オレ達に近づいてくる。
(これが? マフィアのドン?)
歳は二十歳くらいだろうか、首領というからにはヤクザの組長クラスのはずなのに随分と若い。
セミロンストレートの黒髪前パッツンで眼は糸目、なんか親戚には必ず一人はいるような地味なオネーサン。
(この人がさっきの声の主? でも?)
衣装は手下たち同様、赤紫色した詰襟のツーピース。足元はパンプスじゃなくて、赤茶のごつい皮ブーツ。だから、学生服というより元々の軍服に近いイメージだ。無論、腰に帯剣している。侍ソードタイプの反りが入った片面剣だ。
でもこのオネーサン、手下みたいに顔を隠していない。配下の連中はみんな仮面というか、フルフェイスバイザー付きのヘルメットみたいなのを被っている。
(いや? でも? )
オレは腑に落ちない。
(この人のドコに金色要素? ホタル? って?)
見た感じ、その要素がまったくない。
「貴様が漂着者だな・・・」
「ェ、はい」
首領さん、なんか距離とったまま話かけてきた。
そんなに警戒しなくても・・・
「貴様、名は?」
「タローです。タロー・ヤマダ、山田太郎です」
「そうか、わたしは血染めの天秤が首領、金色蛍と呼ばれる者だ」
(あれ? それって通り名では・・・)
だが、いまはそんなことより・・・
「あの、オレ達・・・」
「タロー、貴様はなんとする?」
「え?」
「その奇跡の力で世界になにをもたらす?」
あー、これ、そーゆー禅問答系・・・
「なにもする気はありません。ただ地味に目立たず平穏に暮らせれば、と思います」
リクルート並の返答だったと思うが?
「では、この事態は?」
「それは・・・あ!」
これからも上手に答えるつもりだったのに、やっぱりこのテの連中は脳筋だ。
いきなり抜刀して斬りかかってきた。
(金色蛍ってコレか・・・綺麗だな・・・)
鬼気迫ったこんな状況だったが不謹慎にもオレは見とれてしまった。
暗闇の中、ユラユラと金色の光を放つ蛍が宙を舞う。
その正体は瞳。
糸目に隠されていたオネーサンの瞳、見開けば金色に淡く輝いて、その光の残光がゆらゆら・ゆらゆら、と・・・
(消えた?)
ハッと気付くと視線の先には何もない暗闇。
だが、次の瞬間、蛍はオレのすぐそばに!
オレの隣でオレを見据えている・・・
(マジかよ・・・)
「タロー!」とチィルールの絶叫。
チィルールが剣に手をかけようとするが・・・
明らかにソレを上回るスピードで・・・
チィルールが剣を握ったとき、すでに金色蛍の刃は頭上に振り上げられていて・・・
(斬られる! チィルール! 逃げろ!)
咄嗟に・・・
オレはチィルールを突き飛ばそうと・・・
手を伸ばし・・・
触れた・・・
瞬間・・・
辺りが眩い光に包まれた。
(マジックエールが・・・)
また不用意にオレのマジックエールが発動して、チィルールの魔力を活性化させた。
ギラギラと眩しく輝くチィルールの身体。
金色蛍さん、凄い勢いで距離とった。
手下さんたちもすごい警戒。
そういえば、臆病なほど警戒心が強く、引き際がいいのがプロだって聞いたことがある。
「うおおおおお・・・」とか、雄たけびを挙げてるチィルール。
(コレきっと、絶対絶命から覚醒して逆転する主人公を気取ってるんだよなぁ)
だって、雄たけびが、なんかシャウトしてるし・・・
決めるつもりなんだよなぁ・・・
必殺技かなんかで・・・(オレ見たことないけど・・・)
気持ちはすごく分かる。
だがムリだ。
(お前のナンチャッテ剣技が通用するような相手じゃないの、さっき見せられただろが!)
金色蛍さん、さっき、オレを斬ろうと思えば簡単に出来た。でもそれをしなかったのは、あくまで自分の力アピールだ。『自分より強いつもりなら相手になってやるが、素直に従えばそれなりに対応してやる』というメッセージだった。
(だから、抵抗はヤバイ。だがコレ、この状況・・・)
とりあえず、やる気マンマンのチィルールが邪魔だ。
オレは雄たけびを挙げてるチィルールの頭をゲンコツで・・・
「おおおおお・・・」
『ゴン!』と殴る。
「お・・・げほっ・・・かほ」コホコホと咳き込むチィルール。
雄たけびが変なトコに入ったらしい。
「抵抗するというか?」と金色蛍さん。
「めっそうもございません」
「では、ソレをなんとする?」
オレがマジックエールして輝いてるチィルール。
「あー、コレはですねぇ、暗い夜道を照らすのに良いかと・・・」
オレはピカピカしているチィルールを掲げて、辺りと照らす。
「や、やめんかーぁ・・・」とチィルール。
「くすくす」とマフィアの皆さんにはウケタようすですが・・・
首領の金色蛍さんには?
「・・・ならば、武装を解除し、同行願おうか?」
「はい」
「断る・・・」とチィルール(お前・・・)
「断りません」
「断る、と言っている」
「じゃあ、この子、ハブで・・・」
ポイッとチィルールを放り捨てた。
キラキラも収まってきた。
「はあ?」
「この子、オレには関係ない子なんで。捨てていきます」
いや、実際チィルールは関係ないんだし、巻き添えにはできないし?
「まぁ、かまわんが・・・」と金色蛍さん。
「はあああ?」
「じゃあな、縁があったら、また、どこかでな?」
「はああああああああああ?」
ワナワナと震えてるチィルール。
その気持ちは・・・うーん、分からない。
でも、なりゆきで仕方ないことだ。
危険なことには巻き込めないし、やっぱり潮時だと思う。
「約束は?・・・」震える声のチィルール。
「え?」
「ずっと、一緒にいてくれるって、約束!」
(あれ? 約束ってそんな感じだっけ?)
「でもね、その剣が、チィルールの持ってる剣がオレ達の邪魔になってるんだよ?」
「これは特別なんだ! 捨てるわけにはゆかん!」
「誰かの形見とか?」
「違う、コレはそんな軽薄なモノではない」
(形見が軽薄って・・・なんだソレ・・・)
いつになく頑なな御様子。
どうにも困った。
こうまでだと、連れて行ってやりたいけど・・・
「捨てろ、とは言っておらん。ただ、それはしばらく預からせてもらう」
金色蛍さん、やさしいかも?
「本当か? 信用できるのか? コレは、神の・・・」
と口をつぐむチィルール。
なんか変なこと言った? まぁ「神」とか言ちゃう時点でアレだけど。
「・・・神?」
「いや、なんでもない」
(なんで二人ともシリアスなの? そこ笑うとこじゃないの? 『中二病乙!』みたいに)
「貴様の名は?」
「チィルール・ロクドル」
「サードネームは?」
「オクエン」
「フォースネームは?」
「……」
「わかった。そのまま携帯を許可しよう」
「ほんとか?」
金色蛍さん、なにをわかったの?
「ただし、次、抜けば、迷わず斬る・・・そのことは、お分かり頂けますよう・・・」
「うむ、承知した」
金色蛍さん、なんか敬語ぽくっなってない?
なんか、よくわからんが、こんなやりとりで、オレ達はマフィアに拉致された。




