海賊少女イイルカ
目測を誤り、獲物の貨物客船を通り過ぎてしまうという醜態を晒しながらも、凝りもせず反転して追いついてきた海賊船団。
すべては新米で頭領気取りの娘イイルカの所為。
貨物客船『ナカミオーサン』に横付けする海賊船達。
中型とはいえ貨物船のナカミオーサンに対し、十人乗りくらいで漁業船でもある木造船舶の海賊船。横付けすると十メートルくらいの高低差でナカミオーサンの甲板は見えなくなる。
「よーし! 乗り込むぜ!」
醜態にもめげずに元気なイイルカ。というより経験不足過ぎて失敗を失敗と認識できていない御様子。
「姫、相手は抵抗していません。このままでも交渉は可能です」
「姫じゃねー! 頭領だ」
子守役の若頭マイルミールも仕方なく彼女の我侭に付き合うしかない。
部下に命じてフックの付いたロープを投げさせた。ロープに体重を掛けてみて、上手くフックが引っ掛かったのを確認した。
「ではまず私から……」
「待て、一番乗りはアタイだよ」
「イイルカ、不意打ちの抵抗があるやもしれません」
「ハッ、アタイがそんなヘマ打つかよ」
「……では」
「いくぜ!」
海賊経験の豊富なマイルミールは貨物船の様子からして反抗の可能性は低いと判断し、それを許した。
イイルカが垂れ下がっているロープをよじ登っていく。それに続いて、部下達に指示をだし船を任せてマイルミールも登る。自分しか見えていないイイルカと違って、当然のことではあるがマイルミールは全体を見渡していた。
(結果的にはこのほうがよかったな)
イイルカが途中で止まってしまった様子を見て、マイルミールは考えた。
「どうかしましたか?」
「なんでもない」
「早く上がらないと」
「ちょっと休憩」
全身が強張っているのが分かる。
ちょっと青ざめた表情と細くなった呼吸にも気付いた。
この高さにビビってしまったのだろう。
「ではちょいと失礼しますよ」
「あわぅあぅ」
マイルミールがイイルカの股に首を割り込ませ肩車状態に。
「握ったロープは緩めて、オシッコの穴は締めるっ」
「はわぅ」
そしてそのままリズミカルにロープをよじ登った。
「ハイ、ホイ、よっと、到着しました」
「ああぅわぁぅ」
肩車したまま甲板に登場。
彼女達の動向をうかがい甲板に降りてきた船長と付き添いのクルー達も、それにはやや驚いた。
けれど海賊家業の長いマイルミールのとっては、華奢な小娘一人担いでロープ登りなんて大したことではなかった。
「私がこの船『ナカミオーサン』の船長で、ドドルスと言います。初めまして」
前に出た船長、名乗りながらマイルミールに手を差し出す。でも違う。海賊のリーダーは彼女に肩車されたポニーテールの似合う少女のほう。
「私は付き添いの若頭でマイルミール。で、こちらが一応頭領代理のイイルカ。以後お見知りおきを」
「ん? ああ、よろしく」
「おおーっと! 馴れ合いはご免だね。それよか出すモン、ちゃんと出してもらおうか?」
「はは、威勢のいいお嬢さんだ。さすがは頭領代理」
「あたぼーよ! カカカッ!」
などと偉そうに腕を組んで高笑いのイイルカ。人の頭の上で、船長の皮肉にも気付かずに。
「我々は無用の争いを避け、平和的に解決したいと思っている」
「オウ、無論だ。平和はいいことだぞ」
「……ということで、どうだろうか? 我々はあなた方に通行料として金貨一枚を支払いたいのだが?」
「ほぉう、金貨一枚ね。持ってんのかい?」
「ああ、これでどうだろう」
船長のドドルス、自分のジャケットの内ポケットから金貨一枚を取り出して、イイルカに渡した。これは彼のポケットマネーである。とはいえ、荷の到着が遅れれば数十倍の違約金が発生するのだ。海賊達はそれを知っているからこそ交渉という名の足止めをする訳だ。
だからもし金貨一枚(十万円程度)で済むものなら安い話だった。
大昔と違って最近は海賊もスマートになっていた。とはいえカツアゲ行為には変わりないが。
「ふむ。確かに金貨だ(これが金貨? 見たことはあるけど触ったのは初めてー、きゃああー)」
「それでよろしいかな?」
「シケてるが、まあ今回はこれで許してやらあ」
「では我々は航行を続けさせていただきます」
「ああ、よい海を」
イイルカはご満悦の様子。
でもマイルミール。
(姫、この船の相場なら金貨十枚はイケますぜ)
なんてこと、上機嫌のイイルカには絶対言えないコトであった。
「じゃあ帰りましょうね、姫」
「うん……じゃねぇー、頭領だ!」
「はいはい、頭領代理(やっと終わった)」
イイルカの初陣初勝利。金貨一枚ゲットだぜー、で終わるはずだったこの出来事。
この船の甲板にもう一人、マイルミールの部下が這い上がって来たことから風雲急を告げることになるのだった。
「マイル姐さん! ヤベーよ」
「何事か?」
「シマ荒らしだ。クジラの連中が里旗を揚げたままこっちに向かってきやがる」
「なんだと!?」
「警告も無視。奴らやる気だぜ?」
「っち!」
彼女達とは別の海賊が自分達の縄張りに侵入してきたのだ。
しかも、所属を示す里旗を掲げたまま。これはケンカを売っているに等しい行為だった。
「仲間争いですか? 我々には関係ないことですから、早く退船願えますか?」
「船長、奴らは私達から獲物を掻っ攫いにきてるんですよ。あなた方も無関係で知らぬ顔はできませんねえ」
「通行料はもう払ったぞ! これ以上、なんでだ。お前らこそこの船の航行を守る義務があるはずだ!」
「ですよね? だからこそ協力していただかないと。だって私らが敗北したらもう一回搾取されるのはあなた方のほうなんですから? なあ?」
「っく!」
(これで足場は固まった。だがクジラの連中を相手するにはまだヤバイ。しかもこの……)
「てやんでー! クジラの連中がナンボのもんじゃ! イルカ魂を見せ付けてやれ、いいなー! オメーらぁ!!」
自分の肩に乗るイイルカが重荷だった。
主人公達はすぐ近くに……




