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友達の友達はただの知り合い


 次の日。

 その日の朝。


「ルルーチィ、ほらコッチに来い」

「チィーちゃん?」


 手を引っ張って通路を進む。

 船のデッキに向かってルルーチィを強引に連れ出したチィルール。


「ちゃん付けはやめい言うに」

「ゴメン。でも二人きりの時は……」

「うーむ――分かった。許可する」

「チィーちゃあん!!」


 チィルールに抱きつくルルーチィ。それはハグハグスリスリするネコそのモノ。


「やめーい。まったく」

「だって私達、友達でしょ」

「まあそうだが。うん、そうであるなルーちゃん」

「ふああ、チィーちゃああああんんん」

「やめい言うにー。まったくお前は昔から……」


 元気のなかったルルーチィを励ますために、チィルールはセイヤの進言にのったのだが、もはや必要なさげ。

 なぜならルルーチィはいつも通りチィルールに甘えてくるのだ。


(なんだコヤツ。急に元気になりおって――)


 だって所詮ルルーチィは、なんのかんの言って、ただ単純にチィルールに甘えたかっただけだし。二人きりで彼女を独占したかっただけだし。

 結局それでよかったのだ。

 ネコ系ハーフビーのルルーチィの頭はネコ脳だし。だから悩みの優先順位が上下移動したら前に悩んでたことなんてどうでもよくなるのである。


(だが聞いてやらねばな――)


 でもチィルールは実行するのだ。


『いいか? 本当の友達なら例え言いたいことがあっても逆に言えなくなるもんなんだ。だから二人っきりになって待つんだ。デッキに上がって二人きりになって海でも見ながらじっくり待つんだ。ルルーチィがお前に悩みを話すまでだ。二人で海を眺めてくるんだ。そして話してくれるまで待つんだぞ? いいな!』


 セイヤに教わったとおりの方法を。

 だってチィルールはアスペっ子だから。


「見よルルーチィ。この広大な大海原を!」


 デッキにあがったチィルールが元気よく発声した。

 しかしである。

 本日は雨模様。

 波も荒い。

 灰色した雲に閉ざされたお日様は光を海面に届けること叶わず。

 視界は『シャバシャバ』と降り注ぐ雨粒に遮られていた。


 大海原なんてどこにもなーい!


 茶色気な雨雲と水気飛沫の霧のせいで見えなーい!


「チィーちゃん、濡れて風邪ひくかもだから、中に戻ろ?」


「……ルルーチィ」


「はい?」


「何も言わず……一緒に海を見ようではないか」


「え……」


「……」


「チィーちゃん?」


「……」


「?」


「……」


「……」


 沈黙した二人の間に、雨粒を含んだ突風が吹きつけた。

 

「っう! アイタタっ、イタタ」

「チィーちゃん!」


 顔面に突き刺さる雨粒。それに怯んだチィルールを抱き寄せるルルーチィ。


「戻ろ?」

「いや、しかしだなあ」

「なに?」

「だってまだお前に悩みを打ち明けてもらってないしな」

「あ、え、チィーちゃん!?」


 ようやく理解したルルーチィ。

 

「セイヤに教わった方法だが、やはり性に合わんな」

「セイヤって(あの男――)」

「ルルーチィ」

「はい」

「言いたいことがあるならはっきり申してみよ!」

「あ、うぅ」


 お悩み相談に乗ろうとする者の態度ではない。


(でもチィーちゃんにあんな酷い出来事の話をしても仕方ないし)


 ルルーチィは知っている。たとえ話したところで『気にするでない』の一言で終わらせてしまうチィルールの性格を。


「わ、私はただね、チィーちゃんとこうしてお話がしたかっただけだよ」

「なんと」

「ありがとうチィーちゃん。私はもう元気だよ」


 ハグするルルーチィ。


「セイヤのヤツ、まさかこうなると分かっておったのか」


「そんな訳あるか」


「セイヤ――」


 そこへセイヤが現れる。

 チィルールに抱きついているルルーチィの背中がピクンと反応した。


「二人とも仲がいいな」

「うむ」

「あ!?」


 とルルーチィが驚きの声。


「ナデナデするな!」


 自分の頭を撫でたセイヤの手を払った。


「あら、お前さんもナデナデ大嫌いか」

「ハラスメントだ」

「なんの?」

「アニマルハラスメントだ」

「わはは。じゃあコッチは」


 今度はチィルールの頭を撫でるセイヤ。


「やめーい」

「こっちはチャイルドハラスメント。略してチャイハラな?」

「ぐぬぬ」

「チィーちゃん、イコ」


 その場から離れようとした二人は、船内入り口からこちらを覗いているトロイとリリィーンの存在にも気付く。

 慌てて首を引っ込めたその二人。

 そしてその場でトロイは腕組みをしながら壁に背を預ける恰好をした。片足のつま先も浮かせてちょっとクロス。

 

「!?」


 一方リリィーンのほうはそのカッコいいポーズに対抗しようと色々思案。だが思い浮かばない。

 すぐそこまで近付いてきたチィルールとルルーチィの気配。

 慌てたリリィーン、トロイに壁ドンしました。


「……」


 その微妙な空気の中を沈黙した二人が通り抜けていきました。


「ど、どいてくれないかい?」

「くぅっ……」

「ドンマイ」


(変な人達……さすがはチィーちゃんの友達、って私も同類なのかな? ふふふ)


 ルルーチィの笑顔。



すこしは近づけたのだろうか

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