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運命の死闘


 指定した決闘場の墓場。

 ククリールは用心もせず無防備に姿を曝け出し、辺りを徘徊した。


「遅かったじゃないか」


 目の前にやはり無防備に姿を晒してきたルルーチィ。

 ククリールの様子に答えたのだろう。


「律儀に待っていなくてもよかっただろ?」

「許されると、思うか?」

「いいや。私は許さなかった」

「それは正義か?」

「正義? そんなものがあそこに合ったか?」

「……」


 答えられることはできない。たとえソコにいたのが無邪気な少女達だったとしても、やっていたのは暗殺仕事だ。


「そういえば私も正義なんて知らないな」

「だろう? 誰よりも血に飢えた化け物の貴様だからなあ」


 キメラに覚醒しかけたルルーチィを知っているからこその台詞。

 口上は明らかにルルーチィが不利。


「だが、慈悲の心は知っている」

「化け物がか?」

「ああ。だから、お前を慈悲の心をもって抹殺する」


 冷酷な暗殺者の眼差しを向けられたククリール。


「お前も所詮は人殺しだー!!」


 反応したのはククリールが先だった。

 両手に短剣を構え、捨て身のダッシュ。

 真正面からルルーチィに斬りかかった。

 一撃目は眼を狙った横一文字斬り。

 後ろに反ったったところを続けざまにアゴ下から覗いたノド元を反対の短剣で斬りつける。

 さすがに後方へと退避するルルーチィ。

 間髪いれずに両手の短剣を投げつける。

 だがこれはルルーチィの取り出した短剣に受け弾かれた。


(最初から捨て身で目を攻撃してくるなんて、昔、慎重派だったこの子からは考えられない)


 とルルーチィ。


(さすがにかわすだろ。しかし、捨て身の先制攻撃は印象に残ったはずだ。強靭なハーフビーに力押しされるのが一番厄介だが、これで抑えが効くはずだ。ただの復讐でしかないヤツにとって後遺症が残るレベルの怪我など望んではいない。私とは背負っているモノが違う。背負う? なにをだ、私は――)


 その迷いは隙を生んだ。

 今度はルルーチィに攻撃される。

 左手斜めに向かってダッシュしてきた体は墓石の角を踏みしめ、勢いが加速したまま方向転換。こちらに急接近してきた。


(舐めるな!!)


 激突する勢いの攻撃を受け止める。

 お互いの短剣がギャンっと火花を散らし絡みあい、頭部と頭部がゴンっと鈍い音を響かせ激突した。

 力を力で押さえ込んだのだ。

 両者の額から血が滴る。


「や、やるじゃん。あの臆病モンが」

「散々イキっといて、アンタ人を殺したことないな」

「な?」

「ぬる過ぎる。こんな試合の勝負みたいなケンカ、ぬる過ぎる!」


 お互いの短剣がギリギリと軋む。


「こんな児戯で私を殺せると思うな!」


 頭蓋を相手の頭に叩き込む。


「どうしたあ!」


 連続してゴウン・ゴウンと頭突き攻撃。その鬼気迫る気迫。

 さすがに怯んだルルーチィ。防御体勢に移行する。


 その瞬間を狙って、ククリールは滴った血が混じる唾を吐き相手の右目に直撃させた。

 と同時に死角になった方向へ回り込む、と見せかけ、実際に姿を消したのは一瞬だけ。相手がこちらに誘われたのを確認して正面から突っ込んだ。


「オラア!!」と威勢を上げたが、それも声だけ。


 まだ攻撃範囲ではない。半歩外側からの攻撃モーション。

 片目が塞がったルルーチィの遠近感は麻痺している。

 だからその攻撃モーションに誘われて受け流しの短剣が前に伸びてくる。


(かかった!)


 防御の為に誘い出されたその短剣を腕ごと振り流し、がら空きになった左から本命の攻撃を加える。

 短剣の先端がルルーチィの首を狙っていた。


(マズイ! 右側ノーガード)


 後手になり振り回されているルルーチィ。

 右手を弾かれて迎撃は無理な体勢。

 しかも死角からの攻撃

 完全にピンチだ。


(どこからくる? 魔力壁で防御するしかない! 気配を読め)


 魔力で作る防御壁自身が大量の魔力を消費するので全体ガードなんてしたら、その場しのぎで後のない自殺行為だ。

 なぜなら魔力を持った女同士の闘いは先に魔力を使い果たしたほうが負けるからだ。もしそうなってしまい走って逃げ出したとしても魔力の篭った小石つぶて程度の攻撃一発で死に至る。それほどまでにMPの残量は重要なのだ。


(くる! 上半身上方、首か)


 ハーフビーであるルルーチィのネコ耳がピクピクと反応していた。

 狙い通りにククリールの短剣を魔力の壁で受け止める。


「甘い!!」


 短剣の先端に魔力が注入され輝く。

 その輝きはルルーチィの魔力壁を破壊した。


(もう一枚!!)


 追加の魔力壁。


「甘い、と言った!!」


 ククリールの重心がもう一歩前に進む。


「その程度の魔力壁で受け止められるのは試合の勝負事だ! 本気でノドを突き破るつもりの相手に通用するか!!」

「っ!!」


 身をヒネり攻撃を受け流す……が、流しきれずに身体も弾け飛ぶ。


「くっ!」


 地面に落下。勢いに乗ったまま身を回転させ、距離をとった。追撃の様子はない。ククリールも渾身の連続攻撃だったようだ。

 その隙に慌てて傷の確認。致命傷には至らない。だが場所が急所ゆえに手をあて、擬似治療魔法で応急処置だけは行った。


「ハアハア(ヤバかった……やっぱこの子には素質あった)」

「フゥフゥ(届かなかったか。だが想定内。ヤツのMPは削れたんだ。とすれば私の技が使える)」


 ククリールには奥の手があった。

 自身の魔力消費が激しいために序盤からは使えなかったその技をようやく解禁できるのだ。


(ことは計算通りに運んでいる……)

 

 第二ラウンドが始まろうとしていた。



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