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主人公・・・って、ナニですか?

 

 オレは街中を駆け、喫茶『漂着者』を目指す。


 (ああ、いやだいやだ、現実にはまだまだオレの知りたくもないことがウジャウジャあるに違いない)


 逃げている、オレは現実から逃げている。

 

 (吹っ切れ・・・考えてもしかたないことだ。とっとと、今を過去にするんだ)


 調子に乗って出向いたはいいが何もできなかった。

 いや、やらかした・・・

 厳しい現実の審判を下してきた。

 しかも偉そうに・・・


 (オレ、何様のつもりだった?)


 主人公きどりで何でもできるって感じで・・・やらかした。


 (オレ、もう死ねよ、くそ)

 

 まて、ない、死ぬのはない、さっき死を目前にした人、見てきたばかりだ。

 それはない。

 胸が苦しい・・・

 だって全力で走ってるし。


 (なんか、チィルールに会いたい・・・)

 

 そんな想いで、オレは『漂着者』に戻ったんだ。

 そして店のドアを開けるのに少し勇気、でも、カッコつける資格ないし・・・


 『カランコロン』とドアベルの音。


 中に入る。


 チィルール・・・床にペタリと座り込んで・・・辺りに読み散らかしたマンガ散乱。

 今も熱心に読みふけっている。なんかホッと安心する。


 マスター・・・こちらを一瞥。視線でカウンター席を促す。


 オレ・・・どうしようもなく。顔を伏せたままカウンター席に。


 「……」


 沈黙。だが苦しくはない。

 だって、ここには生きてる人の日常そのものがあった。


 (マスターにはすべて御見通しなんだろな・・・)


 「ほれ、ホットミルク」


 マスターからカップを渡された。

 くそガキには相応しい飲み物か・・・

 でも、その甘いミルクを啜ると、キリキリしていたオレの胃がゆったりと落ち着いたのだった。


 「お前でも、駄目だったか・・・」

 「!・・・」

 「俺はマジックエールの力弱くてな。だが、あれからうちの女房に朝市の噂話聞かされてな。もしや、とも思ったが」

 「カンベンしてください」

 「せめちゃいねぇよ。ただ俺も、救えるもんなら救ってやりたかった」


 そうだ、オレはマスターにもヒドイ侮辱を・・・

 

 「すみません。調子にのってました」

 「べつにいいさ。お前も一人前の男だしな・・・テメェで責任取れるならドンドン、ツッパレや」

 (コレ励ましてくれてるよな)


 オレ、昭和のノリも悪くないと思った。

 

 「ただ、まずいコトになったかもしれねぇ」

 「?」

 「ちょいとヤリすぎたかもな」

 「なにを・・・」

 「自覚ないみてぇだが、お前さん、けっこうな力もちだ。今朝の話、尾ひれは付いてるだろうが、相当な噂話になってるぜ。せっかく出来た後輩で面倒看てやりたかったが、場合によっちゃ、売るぜ?」

 「売る?」

 「言ったろ? マフィアにだ」

 「そ・・・」


 キツイよ、ヤッパ。現実ってこんなだよ。


 「街を出るのもテかもしれねぇぜ?」

 「・・・はい」


 忠告だな。ソレって。マスターも本音じゃオレを売りたくないだろうし。

 シビアだよ現実は。

 そういや、みんなからやりすぎるなって散々言われてたじゃん。

 

 (ほんとオレってバカというか・・・世の中のルール、なんも知らないんだよな)

 

 でもマスター、オレに携帯食料や便利なアイテム、説明しながら色々クレた。

 当分不自由なく旅が出来るほどだ。

 なのに、チィルール・・・

 マンガから離れねぇ・・・


 「もぅ、ちょっと!」

 「さっきもそう言ってたろ!」


 店の中は常連のお客さんで賑わい始めている。

 酒盛りが始まるの中、オレ達は邪魔者。

 ここ、喫茶店というより酒場スナックだ。

 ガキのいていい場所じゃない。


 「だから、もぅちょっと、てば!」

 「あ、そぅ・・・じゃあ、まぁオレ宿屋で夕食の鳥の丸焼き、食ってるから・・・」

 「!」

   

 『ぐきゅぅぅ』とチィルールの腹の音。だってもう夕方過ぎてる、暗闇がせまる、夜は間近だ。子供はとっくにお家の時間。


 「行くぞ、タロー・・・」

 「お、おぅ・・・」


 いいよなぁ・・・

 オレ、チィルールと脳みそ交換したいわ。


 「お世話になりました」マスターに礼。

 「おぅ! すまんな!」と忙しそうなマスター、目線をあえて交わさない、多分ソレ、イロイロな意味がある。


 すこし会話したかったけど、お店は混雑、マスターも大忙しだったので、そのまま失礼した。


 外は薄暗い・・・

 夕焼けはとっくに引っ込んでる。

 何時くらいダロ? 七時くらい?

 ケータイもないし、時計もあたりにないっぽい。


 「腹減ったな?」と無邪気にチィルール

 「そうだな、じゃぁ、コレ食え」


 オレはマスターに貰ったチョコバーみたいなの渡した。

 怪訝そうなチィルール。


 「鳥の丸焼きは? コレ食べたらお腹いっぱいに・・・」

 「すまん・・・」

 「ああ? 鳥の丸焼きは・・・」

 「ごめん。オレ達ここまでかも・・・」

 「え・・・鳥の丸焼き?・・・どこ?」

 「ないよ・・・」


 オレはマフィアに狙われている可能性があることをチィルールに説明する。

 

 「オレはこの街から出て行かなくちゃならない」


 そうだ狙われるのは漂着者であるオレだけなのだ。

 チィルールには関係ない。

 でも、やらかしたばかりのオレは不安でしかたがなかった。

 そんなオレの心情を察してか、チィルールの返事・・・

 

 「なんだ、くだらん。なら私もだ・・・一緒に行くぞ?」

 「でも・・・」

 「心配はない。だってタローは私に誓った。『いきなり、いなくなったりしない』と、だから私もそうする、それだけの話よ。わーはははっっは」


 なにこの男前チィルール。

 惚れそう・・・

 

 (いや? コレ違うな、コトの重大性分かってないからテキトーにカッコいいこと言ってやがる)


 オレ、けっこうチィルールのこと詳しいから・・・

 

 (やっぱオレがしっかりしないとな。コイツを一人にするほうがヤバイだろ)


 なんか元気出てきた。



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