ククリールは知らない
(なにが起こった?)
離れの小屋に横たわる頭領。
異変には気付いたが、自身は寝たきりの身。
(火の手が上がっておるが? なぜ誰も反応せぬ?)
それなりに訓練を受けた者達の反抗の気配がまったくない事が異常なのだ。
(ワシのような老いぼれなら今更だが、皆はいったいどうしたというんじゃ?)
自身の小屋にも火を放たれた気配は察知している。死ぬのは元より覚悟している。なぜならオクエン王からの恩赦の落とし前として自分の命でミソギとしたい、と返書したのだから。
「はっ! ククリール、お前なのか?」
「あなたはやってはいけないことをした」
物影からククリールの声。気配に気付いた頭領に返事はしたが姿を現す気はないようだ。
「キキレールのことか……」
「……」
「そうか……サー・キルクルーレはどうした?」
「死にました」
「死んだ? まさかお前が?」
「直接やって勝てる相手でないので、皆とモロとも毒薬で……」
「ああー、なんてことだ。お前はどうしようもないお馬鹿な子だ。ああああ。あの子が毒に気付かないわけがないだろう……ああああ、本当にどうしようもない。あああああ」
泣きじゃくる頭領。
「すべては、あなた方の所為だろう! キキレールを殺しておいて、よくも! よくもおお!!」
被害者面した頭領が許せなかったのか、姿を現したククリール。
「ああああ。キルクレールは最期になんと? なんと?」
「自分が悪かったと、謝罪してたさ」
「そうか……うん。うーむ」
「……脳に毒が回ったのか、おかしなことも言っていた」
「!! なんと?」
「自分が罪を背負うから、私に全て忘れて生きろと」
「おおおぅ! キルクレールよ! おおおおお――」
「もうどうでもいい。アンタらの勝手な都合なんて私には関係ない。それより暗殺家業で溜め込んだ資金があるはずだ。暗殺失敗時の違約金のために相当な金額をプールしてたはずだろ? それを貰い受ける。そして新生「礫岩の家」の資金にさせてもらう。金庫の鍵を頂こう? アンタを殺してからでもいいが、手間を省かせてくれないか?」
顔を両手で覆って涙を流していた頭領が、詰まれたヌイグルミの中の一つを取り出してククリールに投げ渡した。
「その中に鍵はある」
「!(コレ、私が昔作って頭領にプレゼントしたのだ。よりにもよって!)」
「スキにしろ」
「ああ、元々コレは私のモノだったしな?」
不恰好な犬のヌイグルミを躊躇なく引き裂き、中から金庫の鍵を取り出した。
鍵を使って金庫を開ける。
「くっ、思ったほどもない、のか」
「高額の仕事など滅多にない。普段はギャングがらみの抗争のドサクサに二束三文稼ぐだけだ」
「チィッ」
金貨の詰まった袋を取り出す。数十枚(数百万相当)。
「だが、女一人が再起するには充分なはず。それで遠くへ行くのだククリール」
「はあ?」
「業はワシらで引き受ける」
「……」
「お前を許す。旅立つのだ、ククリール」
(お前ら、頭おかしいんじゃね?)
サーにしてもこの「礫岩の家」の頭領にしても、組織を壊滅させた者に対しての接し方ではない。
「キモっ!」
そんな一言を残してその場を後にするククリールだった。




