みんなの将来の夢
用意された昼食。
スープとふかした芋。いつものメニュー。
スープの材料は塩漬けのキノコと数種の根菜。キノコから塩けとダシがでるので味付けは少しの野生ハーブで済ませる。塩以外、すべて自家製の完全自給自足料理だ。
「ククリールの時はホント楽しみ」
「なんでこんなに違うかな」
「材料も作り方も同じなんだけどなぁ」
「アンタん時は一番マズイ」
「な、そういうアンタのだって塩辛いしー」
「だよねー」
「えーっ」
「それなら私は――」
ここは食堂。みんな楽しそうに食事は進む。いやルルーチィがもたらした朗報で普段以上に賑やかだ。
「ねえルルーチィ、オクエンにはもっとおいしいスープとかあるの?」
「聞きたーい」
「教えてー」
オクエン国王の救済によって組織が解体され、暗殺仕事から足を洗うことになった彼女達。今から浮かれているのだ。
「あるよ。具が肉だったり、貝や魚だったり。それに味付けも塩だけじゃなくて、バターやミルクも使うし、テールや干し魚でダシを取ったり組み合わせは無数にあるんだよ」
「ミルク!」
「テール?」
「なにソレおいしそう」
「とってもおいしいよ。みんなもきっと気に入るものがあると思う」
「キャー!!」
「でもね?」
「ん?」
「久しぶりに食べたココのスープが一番だと思うな。私は――」
「?」
みんなが困惑してる中で大人であるサーだけがその意味を理解し微笑んでいた。
そんな幸せな昼食もやがて終わり、ルルーチィは頭領の返書をオクエン王に届けるために里を再び出発する。
「みんな必ずこの返書は届けるから。そしたらみんなで幸せになろう」
「ルルーチィ、ありがとう」
「待ってるからー」
「あなたに幸運がありますように」
「ルルお姉ちゃん、バイバーイ」
「バイバーイ」
総出で見送りしてくれた。
そしてフモトのダミー村到着するが、今回は挨拶だけで素通り。
もう悠長に構える時間はない。
一刻も早く次の段取りをたてないといけない。
(みんな、どんな仕事が似合うかなあ。ククリールは料理屋さん? カシールやミミーリとかは血の気が多いからやっぱ戦士かなあ。でもそれはちょっと可哀想かな。サーは頭領の世話とみんなの管理をって今までどうりか。他になにかいい仕事探してあげたいなあ)
道中、そんな幸せな妄想が止め処なく湧いてくる。
(まず最初は美味しいモノを食べに連れていってあげようかな。串焼きのお肉や鳥のから揚げなんて驚くだろうなあ。私がそうだったみたいに。だから今度はみんなにもそうしてあげたいんだ。いろんなことをみんなに知ってほしいんだ!)
ニヤニヤがとまらない顔。
その足取りも残り体力を考えずに走り出してしまう。
「イヤッホー!!」
そわそわしているのはルルーチィだけでない。里に残っているみんなも同様だ。
「いつごろ到着するかな?」
「ルルーチィの足なら三日、いや二日かも」
「馬より速いもんね」
「遅くても一週間後には、私達?」
「そうよ、王宮で働くの。そしたら舞踏会で、異国の王子様に出会うのよ?」
「キャー!!」
畑作業をしながら雑談は続く。
「でも出会うだけだろ?」
「そうそう給仕係を王子様が相手するかっての」
横から茶々を入れる二人組み。
「夢がないなあ、カシールとミミーリの二人は」
「私らは大人だからな」
「それにちゃんと夢だって持ってるての」
「どんな?」
「私らは――」
「そう、王国騎士団に入る!」
『……』テンション下がりましたー
「チビ達はやっぱ学校に――」
「そだな」
「私も学校行ってみたい」
「それ私も」
「オイ! お前らー!」
「人に宣言させておいてー!」
「だってツマンナーイ」
「今までと同じじゃん」
「だよねー」
「ば、お前ら、全然チゲーし」
「コラ! 無駄話もいい加減にしろ!」
「はーい」
「へーい」
「ふぅ(まったく)」
サーに注意されても懲りてない様子。
みんな夢は色々あるようで。でも……
(みんなは何でそんなに嬉しそうなんだろう……なんで?)
みんなの会話の中、ククリールは静かな笑みを浮かべたまま沈黙していた。




