意外な結末
「いや! 触るな!!」
ビクンッとなりながら顔を上げたククリールに突き飛ばされたルルーチィ。
「あはは、壊すなんて、ウソウソ。なーんちゃってダヨ」
「……」
シリモチ着いて愛想笑い。でも、ククリールは警戒をしたままだ。
「あ、うん。ゴメンね。本当にゴメン。申し訳ない」
「……」
「えーと、登れそうな場所探そう? 魔物達がまた襲い掛かってくるかもしれないし」
「……っぅ」
ククリールとルルーチィ。気まずい雰囲気。
だが取り成すのは無理そう。なんちゃってで殺されそうになった相手に、殺しそうになった立場の自分が自分でフォローなんて出来るわけもない。
離れこそしないが近寄りもしない距離で付いて来るククリール。
「こっちは木が生えてる。傾斜も緩い。こっちから登れそうだよ?」
「……」
(気まずい……でも、無理ないか。さっきのアレはなんだったんだろ?)
本人は気付いてないが、実はハーフビーの彼女には妖精族の血も少し流れているのだ。そのため最悪の混血種キメラが発現しかかったのだ。キメラの殺戮衝動に飲み込まれそうになって先程ククリールを殺害しようとした。それはもう友情どころか人としての信用すら失わせるに充分な話である。
「足場が悪い。手を……」
「……」
「気おつけてね」
差し出した手が握り返されることはなかった。
無言のまま崖を登り、ようやく元の道に辿り着く。
「きっつー」
道に大の字に寝転んだルルーチィ。
色々と思い悩むことはあったが、取りあえずは体力の限界なので体を休ませたいところ。
しかし、それは許されなかった。
「ルルーチィ、無事だったか。あとはもう一人か……」
「な! サー!?」
彼女達を奈落の底に叩き落した張本人がいた。
「この谷底は強力な魔物の巣だからな。全滅したものとばかり」
「まさか私達の生死を確認するために残ってるなんてね。仕事熱心なことで。(教官相手に素手でどこまでできるか? いや、やらなくちゃ殺される)」
「そんな訳でもないが……」
咄嗟に立ち上がったものの武器を使い果たしているルルーチィ。だが素手でも戦わなくてはならない。
けれどサーは腕組みをしたままの姿で登ってくるもう一人を待っていた。
「ククリールか。まさか気の弱いお前のほうがな」
「ひっ!」
サーの姿を見止めたククリールは小さな悲鳴を挙げた。
「ということは、キキレールは……」
「死んだ。ククリールを……(とと、守るために、なんて言えない)」
「そうか……」
「……(なんだ? サーの様子がオカシイ。殺気も感じないが、いや油断は禁物だ。サーならコッチが死んだことにも気付かせない瞬殺ができる)」
腕を組んだまま、なにか物思いにふけっているかのような姿。隙だらけで、殺し損なった者達を前にしている今の状況に似つかわしいモノではない。
「お、お願いします! 助けてください! 殺さないでくださいぃぃぃ」
「よせククリール! 油断するな!(サーが容赦するはずないだろ) 」
ククリールがサーの足元に跪いて命乞いを始めたのだ。
「なんでもします。殺しもします。だから許してください。殺さないでください。お願いしますぅぅぅ」
泣き喚き、恥も外聞もない姿。
その時、信じられないことが起こった。サーは足元にひれ伏してるククリールの為に膝をまげ、彼女を抱き起こすとその背中をポンポンとやさしく叩いたのだ。
「一緒に里に戻ろう」
「!!……は、はい。うわあああああんん――」
子供みたいに泣きじゃくるククリール。
(な!? なんだソレ! ズルイぞ!!)
「ルルーチィも戻るか?」
「え!(見透かされた? 恥ずかしー)」
「どうした?」
差し出された手、そして優しい眼差し。泣きそうになった。
「っ……。いえ、私は……」
「外の世界で生きていくというのは厳しいぞ。一人で耐えられるか?」
「わ、私は一人じゃありません。私にはチィーちゃんがいます」
「あの妖精の話か。まだ信じてたんだな」
「チィーちゃんは実在します! その子を探しに行くんです(そうだ。それが私の本来の目的)」
たまにフラっと現れては、またどこかにヒョイっと消えていくチィルールという名前以外正体不明の少女。里の仲間に馴染めなかったルルーチィにとっては大切な友達だった。でも辺境にある隔離された里に少女が一人で出入りなんて不可能だとして誰にも信じてもらえなかったのだ。だからチィルールはファンタジーの妖精扱いされていた。
「ならばまず、この道を進み山を越え、下った中腹辺りにある修道院を尋ねるといい」
「いいんですか?(見逃してくれる?)」
意外な展開だった。
「ああ。きっとお前なら外の世界でも大丈夫だろう。その子に会えるといいな」
「ハイ! ありがとうございました」
深々と礼をするルルーチィ。
それには長年お世話になったお礼の気持ちと永遠のお別れの気持ちがこもっていた。
こうしてルルーチィの新たな人生が幕を開けた。
そしてソレは彼女自身も思わぬ方向へと進んでいくのであった。
チィルールとの再会と彼女の正体を知った後、もう会うこともないと思っていた里のみんなとの再会も、実はもうすぐの事だったのだ。
それからすべてが順風満帆でなにもかもが上手く進んでいた時、その事件は起る。
突然だと思われたその悲惨な出来事も、未来から見返せばその時すでに芽は出ていて当然の結果へと進んでいったに過ぎなかった。
だが、その時は誰も……気付かなかったのだ……
そしてあの忌まわしい事件は起こるのです。




