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霧の谷底 絶望の戦い3


「カッコつけてる場合じゃねーんだ! 逃げろ!」


 魔物数体相手に健闘しているククリールに向かってルルーチィは吼えた。

 自身は深手を負ってヨレヨレの状況。

 なんとか立ち上がってみたものの、失った握力で握った短剣を落としてしまう有り様。

 

「ルルーチィを置いては」

「そんなカッコつけてどーする! 全滅するぞ!」

「い、いや!」

「我がまま言ってんじゃねー!!」


 そのやり取りで動揺したのか、魔物の攻撃を喰らって吹っ飛ぶククリール。

 直撃を察して魔力でガードしたようだが――


「くっ……。ま、魔力切れ!?」


 巧く着地して体勢を整えるが、魔力の糸で自在に操っていた三本目の短剣はもう反応しなかった。


「っ(言わんこっちゃねー)」


 援護に入るルルーチィ。素手で魔物に飛び掛る。

 が、実体のない本体はすり抜ける。

 攻撃がきたが、よろけたせいで巧くかわせた。

 

「私が気を引いてる間に逃げろ! っぅ、そんなに持たない!」

「キャアッ!!」

「ククリール!!」


 ヨレヨレのルルーチィでは魔物一体しか気を引けなかった。

 数体の魔物がククリールを弾き飛ばし、断崖へ叩きつけ、そのまま容赦なく追撃の連打を喰らわせた。


「や、やめろおおお!!」


 その圧倒的攻撃に断崖が崩れ、砂山に身体が埋もれてもその上から連打をやめない魔物達。


「こ、このおおお!! お前らは! なんでヒトで遊ぶ? なんでお前らはー!!」


 魔物はヒトを捕食しない。だがヒトを襲い、死に至らしめる。


「お前らのオモチャじゃ、ぐあっ!」


 攻撃を受けた。かわしたつもりだったが、身体はもういうことを利かない。カスッただけの攻撃だったが、軽く数メートル弾かれてうつぶせに倒れこんだ。


「くそお! くそおお!!」


 悔しくて地面に牙を立てる。ツメで土を掻き裂いた。


「ル、ルルーチィ……」

「ククリール?」


 積もった砂の中からかろうじて顔を覗かせた。土砂がある程度攻撃を防いでくれたようだが、もうこれまでのようだ。


「あっちの世界で、キキレールと三人で一緒に暮らそうね……」

「くっ(言うな)」

「生まれ変わって私達本当の姉妹になろ?」

「ああ(言うなっ)」

「最初に死んであっちに行ったのがキキレールだから長女はキキレールね」

「うっ(言うな!)」

「だから次女がルルーチィで私が末っ子なの」

「黙れっ!」

「へへ、次女はイヤなんだ……じゃあ先に私が――」

「黙れーっ!!」

「私がお姉ちゃんだよ? ルルーチィ――」

「うるさーいい!!」


 ルルーチィの全身から湧き出す怒り。

 そんなのお構いなしで、魔物達の攻撃がククリールに、焦点する。

 その気配を感じるルルーチィ。

  

「ヤメロ、お前ら。その子は私の妹だ。掛け替えのない家族だ! ヤメロー!!」


 魔物達の攻撃がククリール目掛けて振り下ろされる様子がスローモーションで見えるルルーチィ。


(それは――私の、大切な、モノだ。お前ら? かってに、触んな?)


 うつ伏せだったルルーチィの身体が、突然『ドオンッ!』と衝撃音を放ち爆発した。


「!!」


 異常な事態。なぜなら今、その瞬間に無から無限が生まれたのだ。それはあり得ない物理法則の発動。


「!?」


 それは魔物すらも硬直させ、その場所に意識を向させたのだ。


「ル、ルルーチィ!?」

「ああ、オメーの姉貴だ。そうだろ? フシャアアアアー!」

「そ、そのツメ……」

「ん? なんか分からんけど付いてるな。でもいい気分だ。フゥウウウウ!」


 爆発した場所に立っているのはルルーチィだ。でも姿がちょっと違う。

 右手が変形している。

 手首から上が完全に三本の鎌みたいな巨大な黒っぽい刃物状になっている。

 しかも凛とした立ち姿。全身からミナギっている魔力の輝き。

 傷も癒えている?

 

「よくもモテアソんでくれたな? 今度はコッチが遊ぶ番だ。ヒャヒャアー!」

「ルルーチィ……」

「楽しいんだ、ククリール。だって考えてみてくれ。さっきまでいい様にされてたのに、今は立場逆転ーん。コイツらバカみたいでしょ? アハハッハハハーウケルー!」

「どうしたの? なんかヘンだよ?」

「ああ、ヘンなんだ。力が漲っている。不思議な感覚だ。でも、今、私は世界最強だー! アーハッハハハハハハハッハハハハハ」

「ル、ルルー……」


 なにかが起こったのは間違いない。

 でもナニかは分からない。

 ただただ、尋常ではない様子。


(ナニかが起こった。そして――あなたには、もう言葉は通じないのね……)


 

覚醒したのはいいものの……

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