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朽ちた誓い

グロ有り 閲覧注意かも


 崖から荷馬車ごと落とされた三人。

 その谷底。

 散らばった馬車の残骸の中でうごめく気配。


「うぅ……」

「くぅ……」

「くそ……」


 奈落の底だが、全員生きていたようだ。

 だが辺りは霧に包まれ、お互いの姿ははっきり見えない。


「チェック!!」


 誰が言ったかは、わからない。

 でも、自分達のコンディションを確認する。

 それは習性だ。


「グリーン!」

「同!」

「全員クリア?」

「ヤー!」

(しかしスゴイ濃霧)


 各自、自分と状況の把握。

 怪我した者は奇跡的にないようだ。

 顔が見えるまで近寄った。

 視界は一メートル未満。尋常でない濃霧だ。 


「捨てる、ということか」キキレールが言った。

「……」ククリールは無言。

「可能性は考えた。でも馬車ごと廃棄されようとは」とルルーチィ。


 追放のはず、だったが? こうしてみれば結局、処分されたということだ。


「家のある里の位置を暴露されたくないということか」

「そんな、ことで……」

「組織に恨みを持つ者は多いだろうしね」

「でもこうなったら仕方ない。それよりも全員無事だったのは奇跡だ。組織からすれば私達は全員死んだことになってるはず」

「うん」

「このまま姿を消せば完全に安心して暮らせるな」

「ああ。結果オーライだけどラッキーだった」

 

 希望が見えた。

 だがそのとき――


「回避!!」危機を告げるキキレールの絶叫。


 その対面にいたルルーチィに事態は分からなかったが、回避の合図に反応して反射的に斜め前に飛び出す。すくなくともその範囲に障害がないことは分かっていたからだ。


「魔物! 気配なんて!?」


 背後をかすめた攻撃の感触と、振り返った先の空間に発光している二つの赤い点。その存在に気付いた。


「幻妖型だ。実体は希薄。霧の中にいるぞ!」

「いやあ! もっといる」

「魔物の巣? ここに投げ込まれたのか。徹底してるな」


 霧の中に浮かんだ紅点がその数を増やしていく。濃霧の中でもそのLEDの輝きみたいに真っ赤な鋭い眼光はくっきりと見えた。


「五体以上いる? 勝てるわけがない。逃げるぞ、ククリール、ルルーチィ、崖を登るぞ」

「うん」

「っあ! ククリール! かい――」

「エ?」


 その合図は間に合わなかった。

 差し出したキキレールの手もすり抜けた。

 背後に現れた魔物にククリールは弾き飛ばされ、宙を舞った。

 咄嗟に魔力で壁を作って防御したものの、その姿は霧の向こうへと消え去ってしまう。

 ヒグマよりも巨大で圧倒的な力を持つ魔物に弾かれたのだ。男だったら身体が破裂していただろうし、その力でどれだけ向こうに弾き飛ばされたか見当もつかない。

 魔物達の目線はその物体に集中し、ソレを追っていった。


「ククリール!」

「待て! もう無理だ。諦めろ、キキレール」

「家族を放っておけるか!!」


 短剣を抜き、一人で霧の中へと突入してった。実体の居場所が不明朗な魔物達の背後から適当に切りつけていた。その攻撃はどれほど有効かは分からない。でも少しでも魔物の注意をククリールから自分に向けなければ、という思いだったのだろう。


「私、こんなとこで死ねないのに(でも、家族か――私がフォーリーフの言いだしっぺだよな。ごめん! チィーちゃん。バイバイかも。ヒーッんっ)」


 幻妖型の魔物なんて普通は魔術師がいて、なんとか相手にできる敵だ。三人は魔術を使えない。

 しかも個体数も敵のほうが上。先程見かけただけで六体は確認した。もしここが巣ならもっといるはずだ。


(なんとか二人を包囲から脱出させて逃げきれれば。そうだ、戦う必要はない。全力で逃走すればいい。幸い三人とも判断力や足の速さはトップレベルの成績だったし。希望の芽はある!)


 リズムをランダムにしたジグザグ移動。足元が見えないため走ることはできない。姿勢を低くし高い位置に目掛けて短剣を投擲してみる。そうすれば相打ちにならない。


「キキレール! ククリール! どこだ!?」


 返事はない。


(くっそ。ここまで来て、まさか二人とも?)


 自慢のネコ耳と震わせ全神経を集中。近くに魔物がいないのを確認して立ち止まる。気配をうかがう。辺りから魔物達の殺気のような邪気をたくさん感じる。やはりここは巣なのだ。


「キキレール! ククリール! 返事をしろ!(ヤバイ、限界だ。一人だけでも逃げるしか)」

「キキレール……」

「え? ククレール?(まだ生きてたか)」


 弱々しいククレールの声が聞こえた。


「今、行く!(しかないよね。でもコワイよぉ)」


 見捨てるわけにはいかない。でも、二人を見捨てれば自分だけは生き残ることができるし、死人になった二人からソレを軽蔑されることもないこともないだろう。その計算が脳裏を駆ける。


(死にたくない、死にたくない、死にたくないよぉ)


 誰かが見ているなら「正義の為になら死んでも」とかカッコいいこと言えるかもしれない。でも誰もいないとこで全滅するための犬死にの正義になんの価値もないことも事実。ただひたすら恐怖に染まり、本人も気付かないうちに半泣き顔で移動しているのだ。


「あ、キキレール?(意識がないんだ!)」


 霧の合間から地面にうつ伏せに倒れているキキレールを発見。接近しながら薬草シップを取り出す。


「今、助ける!(下半身に傷はナシ)」


 容態を確認。

 上半身に手を当ててみる。


「!?」


 その手は空振りして大地を掴んだ。

 霧の向こうから引っ込めた手はニチャリとした赤い血に染まっている。


「ああ」


 四つん這いで霧の向こうへ進むルルーチィ。


「ああああキ、キレーああああ」


 覚悟はしていた。

 だから……上半身がなくなっていたとしても、でも当然ショックは受けた。

 そんなの覚悟してたって我慢できるわけなかった。

 しかも……


「ルルーチィ……」

「……」


 風にサアッと霧が流れて視界がすこし開けた。

 そしてそこには魔物達に囲まれて、へたり込んでいるククリールの姿が……

 

「ククリール、あんた……」


 絶望し輝きを失った灰色の眼差し。涙も乾いている。

 そしてその膝上にはキキレールの上半身が乗っかってて、ソレを抱っこしていた。


「キキレール、が……半分に、なった。どうしよう」

「くっ!!」

   

 呆けた顔でククリールが呟いた。

 

 

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