追放された三人の覚悟
まだ日も昇らぬ早朝。
追放処分が決定したルルーチィ、ククリールにキキレールの三名。
今日はその当日。そしてもうすぐ出発の時間。けど今はまだ宿舎内。仲間とお別れ中。
捨てられる者に掛けれる言葉なんてないから、みんな手を握ってふりふりしたり、背中をトントンしたりがお別れの挨拶になった。
泣いてるククリールをみんなが励ますかのように、一方気丈なキキレールはみんなと視線を交し合ってうなづいていた。ルルーチィはとくに親しい者がいなかったが、それでもベットに篭ったまま手をバイバイしてくる子もいた。
馬に乗ったサーが平屋の宿舎前にやってきた。
出発の時間だ。
気配を察してみんな無言のまま自分の寝床に戻っていく。
布団の中で泣いてる子もいるようだ。
「さあ、行こう」
キキレールがククリールの肩を抱きながら進む。
ルルーチィも付いて宿舎の外へ出ていく。
「この里は極秘だからな。フモトのダミー村に荷馬車を手配してある。さあ行くぞ」
「イエス・サー」
谷を南下して所に引退した組織の人間と行き場のない者達で構成された貧相な村がある。
ゆえにただの村ではない。
もし暗殺組織『礫岩の家』の場所を探る者がいたとするなら、大概はここまでで行方不明になる手はずだ。
そしてその村に用意された荷馬車に乗り込まされ、どこかへと連れてゆかれる三人。
「……」
荷台に座り込んだ三人。
あいかわらず落ち込んでいるククリールを慰めているキキレール。
(ヤレヤレ、二人ともどっちへ向かって、どのくらいの距離まで離されるのか確認取れてるのかねえ)
ホロで覆われ外の様子が不明な荷台の中で、馬車の速度と時間、そして傾斜具合からおおよその位置を測り続けているルルーチィ。
でも目の前の二人の様子にいらいらしてきた。
「いい加減にしなよ、ククリール。そんな感じでウジウジしてるからこういう結果になったんでしょ。たえず前を向いて進まなきゃダメになる。立ち止まってるってのは、何も変化しないことじゃなくて、ドンドンオイテケボリになるってこと! そんな調子じゃ、これからもヤラかすよ?」
「ルルーチィ……」
「それに、キキレールにお礼は言ったの? その子、ククリールの為に自分も一緒に追放されることを選んだの分かってるよね?」
「え……キキレール?」
「いや、いいんだ」
「ご、ごめん」
「違うよ。私はちゃんと自分の意思で決断している。すべての結果は全部自分が受け止めなきゃならないからね」
「ククリール、そこはゴメンじゃなくてアリガトウだよ」
「あ、ありがとう」
「いいんだ」
「ルルーチィもありがとう」
「え? 私はいやまあ、うん」
ククリールに近付かれ、両手を握り締められたルルーチィ。思わずキョドってしまう。
「そうだな。私達はこれから新しい家族として生きていかなきゃな」
「へ? (私は開放されたらチィーちゃんを探す旅に行くつもりなんだけど)」
「そっか、そうよね」
「はあ、まあ」
「よし。今ここで新たな家を結成しよう」
「うん」
「はい……」
ノリノリで話が進むがイマイチ乗り気になれないルルーチィ。
「名前は、あー、うーん」
まあ形から入るのが普通かな。
「三人だから三つ葉のクローバー、とか」
「いいね」
「いや、ダメだよ」
と言ったのはルルーチィ。
「家族なんでしょ? 三人で完結しちゃダメでしょ。せめて四葉のクローバー、とか」
「それだ。『フォーリーフ』って、どお?」
「うん! いいよね。幸せのクローバー」
「え? いいの?」
「うん」
「だって、これから、新しい家族を見つけに行くんだろ!」
「ああ!」
捨てられる立場の自分達が、自立し再結成する覚悟の台詞。それは感動するしかなかった。
三人はお互いに手を掴みあって、視線を交わし肯きあった。
「幸せを見つけに行こう!」
「うん」
「ああ。(ヤバイ。この子らと一緒にいよう。チィーちゃんのことはそれからでいいよね。ゴメン、チィーちゃん)」
固い絆で結ばれあった三人だった。
そして荷馬車内の気配を察してる、並走中のサー。
いつもは険しい表情なのに、その時はすこし口元が緩んでいたのだった。
それから、しばらく……
山を登っている荷馬車が停車した。
(ん、休憩かな?)と、運ばれている三人は感じた。
だが、突然ソレは起こった。
すこし荷台が逆走した、かと思った次の瞬間……
「え?」
「ひ!?」
「くっ!」
空中浮遊感。
「落ちてる?――」
「うそ!! だよね!?」
「マジか!!」
絶望感。
「荷馬車ごとかっ!?」
「いやああ!!」
「くっそ!! (追放ってこういうことか!!)」
崖から荷馬車ごと落下している。
そのことに気付かないほど、三人は鈍くない。
耐ショック体勢にどれほど効果があるかは分からないが、全てを試すしかない。
ククリールを抱きしめるキキレール。
「私達はゴミじゃねー!! 絶対に許さねーぞっ!!」
落下していく馬車の荷台の中から、ルルーチィの咆哮がその崖の谷間に響いた。




