運命の死闘 その序章
(ルルーチィ、まともにやって勝てる相手じゃない。しかし、いつかは決着をつけなければならないのも事実。それが今)
覚悟を胸に気配を消して森の中へ入るククリール。
(時間的にこの場に到着しているとみていい。正面の道から堂々と向かってくる、わけないと踏んでそのウラをかくのがヤツだ。子供用の訓練トラップが仕込んであるあの道に……)
息を潜める。
しばらく……
トラップの「ヒュン」という作動音。シナった枝が開放され石つぶてを誰もいない道側に放った。
「……(ワザとトラップを作動させた。くる!)」
ククリールは振り返りつつ、背後から投げつけられた短剣をかわす。
「っ!(ヤツがこんな単純な手でお終いなはずない! もう一撃)」
だが、投げられた方向視界内に気配や動きはなかった。
「な?(まさか!)」
それはただの感に過ぎなかったが、それでももう一度背後からの攻撃を警戒し回避する。
のだが、その予感は的中する。
「くそ!(百八十度反対からの連続攻撃だと?)」
自分のそばを通り抜けていったタンポン(ルルーチィが短剣と一字違いだから間違って投げた)に驚愕する。
(さすがにヤル。けどそのケレンが命獲りだ)
ククリールは、ほとんどノーモーションから頭上の木々に向かって短剣を投げつける。
(反応あり!)
その不意打ちに反応したルルーチィの気配を見逃さなかった。
すぐさま追い討ちで短剣を投げつける。
だがそれは牽制だ。
ククリールは今の不利な立ち位置を覆すためにそれを行ったのだ。
すぐさま後ろの木の背後に回りこむと、幹に短剣を突き刺し、それを足場にジャンプして、その木に這い上がっていった。
(これは膠着状況になりかねんが、どう出る?)
お互いに相手の場所は特定できている。
だが二人は空を飛ぶことはできない。豊富な魔力を持った者なら空中移動可能だが、二人にも一瞬浮かぶならともかく自由に移動なんて無理な話で、それはお互いに分かっていることである。
(一つだけ手段はあるが、あの技のことはルルーチィも知っている。不意打ちで致命傷は無理だ。モタモタして私が魔力切れになればそれでお終いだ。というか逆にソレを誘われているということか)
手詰まり感。木の上ゆえに足場になる枝は限られている。だから先に動いたほうはどこへ向かうか相手に筒抜けだ。移動先の枝に着地しようとした瞬間、投げられた短剣に貫かれる。だから相手より先に動けない。
気配を探りあうしかない状況。しかし――
「ククリール――」
「……!(話し掛けてきただと?)」
「今のは再会の挨拶がわりだ」
「くく、獣にしては知恵のまわる芸を見せてくれる」
「……やすい挑発だけど、バカだったあんたにしちゃ上出来じゃない」
「口ゲンカしに来たのかい?」
「猶予を与えにきた」
「猶予だと」
「子供達とケジメをつけてこい。やり方はお前流でかまわない。くくく、ハーッハハハッ」
「待てっ! 子供達は関係ない!」
「ほお? そうかい? まあ私はそれでカマワナイさ? だって手を下すのは『お前』だからな。ハーハッハッハ」
「くっ」
「今宵までだ。再び来よう。それまでに整理しておくがいい」
「待て、南だ。南の森の切れ間に墓地がある。そこで勝負だ」
「屍を片付ける手間が省けるいい場所だ。慈悲の心を持ってお前を殺してやるよ……」
「キサマっ」
その後、続いた沈黙。
「行ったようだな」
木から降りて、あたりを探索する。
「これか、私のトラップを逆手に取って自分で使用したわけか」
トラップの弓に短剣が装備されている。本来装填されているはずの矢じりのない木の矢がそばに転がっていた。
「真反対からの連続攻撃の正体はコレだな。てっきり私の技をコピーしたのかと思って焦ったが――どうやらまだ勝機はあるようだ」
ホッと気が抜ける。
だが、歩みを進めその茂みを分けた瞬間、戦慄が走った。
目前の大木。
ルルーチィが登っていたとみられる木。
その樹皮がクマにでもやられたかのようにズタズタに掻き毟られエグレていたからだ。
「あの会話の最中にやったというのか? そんな気配をまったく感じさせずに――あの化け物が!」




