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ルルーチィの宿命


 ワクナ、それはここセンエン大陸から北のオクエン大陸へと向かう船の母港が存在する街。

 その港を一望できる海沿いにあるホテル。

 その二階の窓から表を眺めているネコ耳の少女が一人。


「チィーちゃん、どうしたんだろう――(先日のオクエン行きの船に乗った形跡はなかったし)」


 彼女はルルーチィ。チィルール姫の護衛であり幼馴染でもあるハーフビー(人と獣人のハーフ)の少女であった。

 行方不明(迷子)になったチィルールを探す旅を続けているが、足取りが掴めこそすれ、今だ出会うこと叶わずにいる。

 

「なんでなの、もう(すぐそばまで追いついてたはずなのに、どこかで追い越した? なんて、まさか)」


 その懸念は的中している。

 陸路を追いかけたルルーチィとは違って、チィルール達は舟で海路を進んだ。しかし舟が嵐で難破し遭難。救助されたものの入院し、今だこの街に到着できてはいないのだ。


(だとしても、こうやって監視していれば必ず見付かるはず)


 海を眺めている感じをして、実は港とその通りを抜ける人々を観察しているルルーチィ。抜け目ない。でも正直、退屈気味。次の船が出港するまで三日もあるのだ。


(しかも今度の便はチョウエン行きだしなあ)


 オクエンの隣にあるチョウエン国行きの船便だった。

 母国オクエンを目指しているチィルールが乗り込む可能性は低いわけだ。

 だから気が抜けて窓枠にほお杖を付いたみっともない恰好で道行く人々を眺めていたるする。


「いい天気」


 視界遠く広がる凪いだ海の青。

 海面の香りを纏った風が顔を撫でる。

 単調な雑踏の足音。

 昼食の準備が始まり、どこからか油を炒めるいい香りが漂ってくる。

 誰かがバイオリンを弾き始めた。 


(お昼ご飯なににしようかなあ)


 大あくび……したそのまま固まる表情。

 視界に入ったその女性。


「う、うそ!?」


 困惑し、意味もなく背後の部屋中を見回し、再びその人物を凝視した。


「間違いない……なんで、ヤツがここに! なんで今ココに!!」


 その者はチィルールではない。

 子供達を引き連れた二十歳くらいの優しそうな女性。

 子供達の歳や数からして、その女の子供である可能性はない。

 子供達は全員、あまりいい身なりではないため、周りからは児童保護施設の子供とその世話係にしか見えない。パンが出っ張ったバケットを持っていた。昼食の買出しなのだろう。

 だがルルーチィはその女の正体を知っている。


「アイツ……」


 驚愕していた表情が変化する。

 それは憎悪と嫌悪を剥き出し、敵に襲い掛からんとする獣の顔。


「なにを微笑んでいるお前……なんですこし楽しそうなんだお前……なんでお前が子供達に慕われている……なんでお前幸せそうなんだっ!? ありえない、あっていいわけがナイ!!」


 ハーフビーであるルルーチィに生えた尻尾がムチのように激しくうなる。怒りの限界はもう。


「ウガアアアア!!」


 咆哮を挙げながら二階の窓から、通りに飛び降りたルルーチィ。

 大地から『ドン』と着地音。

 ハーフビーであり魔力の使える彼女だからこその荒業だ。


「ゆ、許さん! 許さんぞ貴様!! 許されると思ってかっ!? シャアアアー!!」

「な!? お前……ルルーチィ、か」


 目前へ空から降ってきたルルーチィに驚くその女。連れの子供達も「なに? なぁに!?」と不安そう。


「八つ裂きにしてやる!!」

「くっ……」


 物騒な物言い。普段の彼女からはとても聞かれない台詞。

 だが今、完全に理性を失った状態。

 

「フーッ! フーッ!」

「っ、……誰か、誰か助けてー!」

「シャアアー!! なにお、しらじらしいぃいいフーッ」

「人殺しよ! 誰か助けてください!」


 悲鳴を挙げる女。


「ん? オメー、人族相手になに本気なってやがんだ」

「おい、こいつフツーじゃねー。抑えるぞ! 誰か手伝え!」

「取りあえず、動くな。な? その状態で今なんかすると、絶対あとで後悔するぜ? な?」


 人通りのある場所でこの所業は完全にマズかった。それほどまでに冷静さを欠いていたのだ。

 イタイケで可憐そうな人族の女と子供達に襲いかかろうとする獣人。

 事態は圧倒的にルルーチィに不利であった。


「き、貴様ー!!」


 屈強な獣人の男達と、魔力を使った女の力で身動きを封じられたのだ。


「……」


 その隙に姿を消してしまったその女。


「許さないぞ! 許されると思うな! 必ず見つけだして八つ裂きにしてやる!!」


 牙を剥き、絶叫するその者の忌まわしき名は、


「ククリールっ!!」



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