主人公の夢
朝食を済ませたオレ達・・・
問題が発生、というか継続中なのか?・・・
(なんだろねぇ・・・まったく・・・)
チィルールが・・・
オレからまったく・・・
離れねえ!
ソファーに座ればもちろん隣に座ってオレの腕を掴んで離さないし、トイレに入ってもドアの前で待ってるし、でもじゃあナデナデしようとすると、オレの手を払いのけてどっか行くし、そして、すぐ戻ってくるし。
(んー? これってツンデレってヤツ?)
よくわからん・・・
「昼飯はマスターのとこで・・・んで、午後は買い物するか?」
「おおお・・・」
オレの提案になんか興奮のチィルール。
「ん? マスター、好きか?」
「へ? うむ、アレはアレでオモシロい、というかヘンだと思うな」
「だよな」
「タローもかっ! わーははっははっ」
大喜びのチィルール。
なんかこっちも楽しくなる。
で予定は決まった。
(マスターに相談もしたいしな・・・)
忙しい昼時はさけて、前みたいな時間帯をねらって伺うことにした。
そして予定通り、喫茶『漂着者』に来た。
相変わらず、他に客はいない。
こんなんで経営大丈夫なの?
注文はハンバーガーとコーラ。
今回はきゅうりのピクルスが添えてあるし、チィルールのは最初から二人前だ。
マスター、流石です。
「・・・って感じで、どうかなって・・・」
オレはマスターに金儲けの手段を説明した。
それはマジックエールの利用である。
朝市でも立証できた。
きっと、大金を払ってでもマジックエールで元気が欲しいと願う人は多いはずだ。
たぶんマスターも大乗り気で・・・と思ったら、なんだかマスター難しい顔してる・・・
「やめとけ・・・」
「え?」
なんで? 意味不明・・・だってみんな幸せになれるのに・・・
「コレ・・・来るぞ?」
「コレて・・・」
マスター、指先で自分の頬、なぞった。
「マフィア・・・ヤクザだ」
「はぁ?」
コッチの世界にも、そりゃ犯罪組織はいるかもしれないけど、なんで?
「考えてもみろ・・・マジックエールなんて元手もなしで稼げる商売だぜ?」
「だからって、なんでヤクザ・・・」
「そんな旨い商売、奴らがほっとくわけねえだろが・・・」
「関係ないし・・・なんかあったら警察が・・・」
「ねえよ?・・・というかいるにはいるが、ヤツラは憲兵みたいなもんだ。国家の威信に係わることならともかく、民間のイザコザには係わらねぇ」
なんだそれ、じゃあこの世界の治安って誰が守ってるの?
「でも、この世界、治安はいいみたいな・・・」
「あぁ、保たれている・・・マフィアによってな?」
ますます意味不明。
「矛盾してるじゃん」
「坊主はシラネェか・・・こっちの世界もそうだが元々現実世界だって、マフィアもヤクザもギャングも地域の治安を管理する自治組織だったてこと」
「なぁ・・・まさか?」
「まぁ、ムリねえわな。ヤクザが極道を離れて暴力団になっちまって久しいからな」
オレの知識、常識って?
マスターの発言はショッキングだった。
「コッチのマフィアは日本の暴力団とは違う、それは理解できるな? じゃあ、連中はなにか? それはヤツラ・・・あくまで『揉め事を許さない』連中だ」
「ますます、わからない、だってオレはみんなを幸せに・・・」
「うん、で・・・お前は大金を稼ぐわけだ。そして成金になったお前はきっといろんなヤツから妬みや嫉妬を受けるわけだ・・・で?・・・ついには?」
「ついには・・・て?」
「さあ? どうなるかな? きっとそれは恐ろしいことだ」
まったくわからない・・・
殺されるっていうのか? でもボディガードを雇えばいいんじゃ?
「兵隊を雇えば、それこそマフィアを!」
「・・・あ、うん。そうやってマフィアの管理下でマジックエールやってる奴らもいる。だが、金銭的なものはほとんど受け取れねえよ?」
「な、不当だ!」
「なに言ってやがる。マフィアの下でマジックエールやってる連中、最初からボランティアでやってるぜ? この能力をみんなの為にってな・・・」
(はあ? じゃ、マフィアってなんだ? 何のために存在してるんだ? 需要があるのか? ヘンだ)
意味が分からない・・・
オレがバカなのか?
それともこの世界の常識が異常なのか?
「まぁ、とりあえず、その話はナシにしとけ・・・おいおい説明してやっから」
とマスターはそう言うが・・・
(納得いかない、なんでみんなに幸せをわけたら駄目なんだ?)
やっぱりこの世界の常識はおかしい。
オレが変えなくちゃいけない?
そのためにオレはこの世界に来たのでは?
『カランコラン』と入り口ドアのベルが鳴る。
「お客さん?」
入ってきた二十代位のおニーさん自身が、オレ達を見つけて、そう言った。
いや、あんただってお客さんですが?
この時間、ほんとに人いないんだな。
それよりも、マスターの様子が普通じゃなくなった。
なんか、慌ててるし、オレのほう見て動揺してる?
「お前! いいかげんにしろ!」と、マスター怒鳴った。
その台詞はお客様にたいしてどうだろう?
オレもチィルールも『ビクぅッ』ってなった。
「頼む! マスター・・・もうアンタの奇跡にしか・・・他に頼るものがないんだ・・・」
「何度も説明したはずだぜ? ムリだ!」
「頼む! 金ならいくらでも・・・死ねというなら死んでもいい。頼むゥ・・・」
その人、土下座まで始めた。
「はあ!? 今、お前が死んでもいいのか? ホントにいいのか!? 」
なのに、やたら邪険にするマスター。
それに、オレのほうをやたら意識してる。
これは、もうオレの出番ってことだろ?
「マジックエール? 奇跡の力をお求めですか?」
ドヤ・・・オレの出番。
「君は?」
「漂着者です」
ドヤ・・・
その人、絶望的な表情から一気に希望に満ちた瞳と表情。
やっぱり、こうだ。
みんなに希望を与えてこその主人公だ。
「あなたは?・・・まさか朝市での出来事を・・・?」
「ええ! 私が起こした奇跡です」
「あなた様が・・・噂を聞き、もしや、コチラにと・・・。お願いします! 妻を、エディルを救ってください。お願いいたします・・・」
「保障は出来ません。ですが、出来るだけのことはします! ご案内ください」
その人、「うおおおお」って泣き伏したよ?
(この人のために全力を尽くす!)と決心するよ?
でも、マスター、すごく悔しそう・・・
(自分が出来ないことを、若造にやられるのは、やっぱりオッサンには悔しいかw)
『絶対に救ってみせる』
だって、それが主人公の務めだし!




