チィルールは現実世界を迷子する3
(さて、セイヤ達はどこにいったのか?)
東京の街を一人ゆく異世界人チィルール。
(先ほどの美味い飯屋(牛丼屋)。みなも連れてきて驚かせてやろう)
確かに連れて来れるものなら、みんな驚くと思う。しかも東京から異世界に転移されたセイヤにいたっては別の意味で。
(しかし、ノドが渇いたな。ん、あれは――)
チィルールの視界に入った若い二人組みの男女。車両用防護柵のガードパイプに腰掛、楽しそうに談笑している。そして二人が口に運んでいるビン状物体。なにかを飲んでいるものと判断した。
『おい、お前たち。その口にしている物を私もほしいのだが?』
「え? なに外国の子? おま、英語イケル?」
「おまえもだ。ってかこの子、ジュースほしいんじゃない?」
ペットボトルを指差ししているチィルールに機転を利かせた女性。
手招きしながら「こっちおいで」とすぐ前の自動販売機に。
ICカードをかざし、スポドリとコーラを迷う。
チィルールに視線を促し「どっち?」と交互に指差すと、適当にコーラを指差しうなずいた。
事実どっちがどっちも区別つかないし。
コーラを取り出しチィルールに渡す。
差し出された小銭を「いいよ、いいよ」と断る女性。
『機械で買えるとは便利だな。しかしこの飲み物――黒いし、お茶であるよな(蓋が付いている)』
ペットボトルのキャップをコルクのつもりで引っこ抜こうとするも無理。
だから次は噛み付いて引っこ抜こうとする。
「ちょー! 待って待って。開けてあげるから」
「外国ってペットボトルないんだな。ヤッパ日本スゲー」
とぼけたことを真顔で感心する男性。
「はい、どうぞ」
『かたじけない。ではいただこう……ブッ? ガハゴヘ? なんだコレ、口の中がパチパチするぞ?』
「そんな慌てて飲まなくても」
炭酸の刺激に驚いて、むせたチィルール。
背中をやさしくトントンしてくれる女性。
(イタズラされたわけではなさそうだな。うむ。しかし、よくよく味わってみるとこれは中々オツなものであるな。甘くて香ばしいぞ。パチパチも面白いではないか。そういえばシュワシュワする幻のぶどう酒の話を聞いたことがある。これもそのような物なのかもしれんな)
おおむね気に入った御様子。
『ムフーッ、……ゲエーップ』
満腹状態でコーラ飲んだらそうなる。
「おーい、そろそろ行こーぜ」
「じゃあね。お嬢ちゃん」
『行くのか? 馳走になった』
子供が苦手な男性の気配を察して女性もその場から離れていった。
『ゲエーップ! 腹に泡が貯まるなこれは。ビンかと思ったが不思議な材料で出来ておる。これも持っていくとしよう』
飲み干したコーラ。空になったペットボトルも持ったまま、再びテクテク進んでいくチィルールであった。




