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チィルールは現実世界を迷子する2


 トト郎という名の灰色した丸っこいヌイグルミをダッコしてるチィルール。

 見慣れぬ東京の街を物怖じすることなくテクテクとあてもなく進んでいく。


「ふぅ(イカン。いよいよ腹がすいてきた)」

 

 それでも一応、食べ物屋を探してはいるのだが……

 日本語で書かれた看板の文字も読めなかったし、たまに目に付く写真で展示された食品は、派手にデコレートされているので食べ物に見えなかったのだ。


「むむ? なにやらよい香りが……ふむ。これは肉、だな」


 目ざとく発見したその牛丼屋さん。看板には茶色くてどうにか食べ物に見える物のイラストがある。

 中に入る。

 他に客もいて、みなそのイラスト風の物を食べている。

 食い物屋で間違いないと判断。

 カウンター席に登り腰掛ける。


『私にもソレをくれ』

「え!? 外人さん? 日本語分かる? まず食券を……」

『なんだ? 金か? ちゃんと持っておる』

「金貨? これ本物?」


 言葉が通じないなんて初めての経験だが、物怖じしないチィルール。

 いい意味で、さすが空気読めない。


 それに対して、バイトのアンちゃん。差し出された金貨を確認し、よからぬ事を考える。


(凹んだキズもあるしどうやら本物の金だ。どこの国の金貨かワカラネーけど地金だとしても一、二万はするだろうな。よし――)


「お譲ちゃん、これじゃ使えないから、お兄さんが両替してあげるね」

『?』

「ほら、こっちの機械に――この千円札を入れて、ボタンを押す」

『……』

「お釣りはお譲ちゃんのね」

『!』

(あ、ヤベ。さすがに千円でお釣りだけじゃ割りに合わなかたか?)


 だが、いっぱい出てきたお釣りの五百円とか十円とか色々なコインで満足気なチィルール。


『ムフー。珍しいコインがいっぱいである』

「んん? じゃあ、ちょっと待っててね。すぐ用意するから」


 そして、差し出される牛丼並み盛り。


『オオーッ! では「いたーだきーます!」』

「ふへ!? ……はい、どうぞ」


 日本人のセイヤに教わった食事前の祈りの言葉「いたーだきーます!」。

 突然の日本語で驚く店員のアンちゃん。


『う、美味い!!』


 気を利かせて出されたスプーンで牛丼を貪り食うチィルール。


(甘くて辛い。でも美味い。なんだ、コレは? 肉と玉ネギなのは分かるが、こうまで米と合う味付けは何なのだ!)

 

 醤油を知らない異世界人です。

 がっふがっふと丼に口を突っ込んでスプーンで中身を掻き込む。

 すると、ほっぺに米粒つけながら元気に――


『おかわり!!』

「ん? ああ、オカワリね。気に入ってもらってなによりだよ。よっしゃ、タマゴサービスな」


 食券も関係なしで次の牛丼を提供する苦笑いのアンちゃん。


『生タマゴ……?』


 停止するチィルール。

 でも、アンちゃん「イケイケ」って口にかっ込む仕草で煽った。

 さすがに、まわりの他の客を確認する。

 そうしたら、やり取りを見守っていた他のお客さん、自分の丼に入っている生タマゴを見せ付けた後、箸で突き崩し、それを豪快に平らげるのだ。


『まことか? しかし、みな、なんとも美味そうに……』


 辛抱堪らないが、いやしかし、それでも……んで食べた。

 だって美味しそうだったから、だ。


『ふぎゃああああ! なんたる美味! 甘辛が「トローリふんわり」で、ますます甘くなった! この濃厚な甘みは? これこそが生のタマゴの味なのか!』


 驚愕のチィルール。

 その様子を眺めていた常連の客はみな、謎の勝利感でガッツポーズ。


『もう一杯ー!!』 


 結局、三杯も食ったチィルールでした。


『美味であった(ゲフーッ)』

「あ、お譲ちゃん、忘れ物だよ?」

『おお。このヌイグルミ。忘れるとこであった』

「またね」


 隣の席に座らせていたトト郎。

 ヒッ捕まえ抱き直す。

 そして満足そうに店を出て行くのだった。 



迷子は続くよ後一回

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