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迷子のチィルール


 ここは遊園地。

 ジェットコースターに乗って気分が悪くなったチィルール。

 ベンチで横になっていた。


「ん? みなはどうした?」


 ふと気付くとセイヤ、リリィーン、トロイの三人の姿がない。


「は!? まさかメシか! 私を置いてか? 許さん!!」


 ぐぐぅーと鳴るチィルールのお腹。

 自分がお腹ヘッタからってその発想はどうなのだろうか。

 とはいえ、どこに行ったのか見当もつかないのでしばらく様子見する。


「……」


 すると、どこからか? 人混みの中から現れた奇妙な数人の集団。

 チィルールの前をコッケイな容姿と踊りと楽器演目で賑やかにして、そのままどこかへと通り過ぎていく。それは今でこそ珍しいが俗に言うチンドン屋だ。


「ほほう……これは、なかなか……」


 進んでゆくチンドン屋にノコノコと着いて行くチィルール……


 そして……どこへともなくその場から消え去ってしまった。


「――」


 そこへ入れ代わりで、セイヤにリリィーンとトロイの三人が同時に別方向から姿を現して合流。


『……』


 全員、神妙な面持ち。

 先程までお互いを追いかけていたはずなのに、今はとくに会話を交わす気配もないのだ。

 なぜか?

 それは説明するまでもあるまい。


「くっ、チィルールのヤツ、どこ行ったんだ。まったくアイツは――はぁ」


 ナニかが抜けてしまったかのように覇気のないセイヤ。元気なくベンチに腰掛けるとうつむき、ため息を吐いた。まあ実際、久々に抜いた後だから仕方ない。同時に手痛く失恋もしたし。


「チィー様にお願いしたいことあったのに……」


 とリリィーン。セイヤと同じく覇気がない感じだが、コチラはなにかを思いつめている様子。


「殿下ドコだろね。(しかしこのメモ……『未来の僕へ、導きの女神チィルールによって時空を旅させられた。気をつけろ。彼女は記憶すら書き換えるぞ』)


 退屈しのぎに何気に開いた手帳に記された文字。


(僕の筆跡に間違いはない。だとしたら? どの記憶を改ざんされたっていうんだい、過去の僕。今の僕には確認や認識のスベもないんだけど。まあ、とんでもないことに巻き込まれた自覚はなんとなくあるけどね)


 三者三様に想いがあった。


 そんな感じの一行からはぐれたチィルール。今は――


「ここは、どこなのだ? 変わった場所であるな……」


 渋滞した車道をユルユルと進む車たち。

 その間を抜けるバイクスクーター。

 両脇の歩道を行き交う人々は誰も武装なんてしていない。


「辺ぴな場所ゆえ、ここも『遊園地』なのであろうよな?」


 遥か上空、ジェット飛行機が頭上を飛び越えていった。


「……」


 足元の黒いアスファルトは、日差しに熱せられ陽炎を漂わせていた。


「遊園地、なかなかあなどれぬ場所、よのう……」

 


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