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トロイの清算


「ナニかの力に巻き込まれたようだけど……」


 トロイは闇夜の森を歩いている。

 ほんの少し前まで、彼女は昼前の時間、仲間たちと共に遊園地にいたはずだった。

 ところが、ふと気付けば、時間も場所も別のところに存在していたのだ。


「昔からこういう物語みたいな不思議な展開には憧れていたものの、実際に自分が体験してみると、実に気味が悪いもんなんだな」


 圧倒的な能力を持った誰かの掌の上でもてあそばれている感覚。

 それは、次の瞬間にも予想外のナニかが発生する予感。

 警戒感と緊張。

 だが森を進むしかない。 


(さあ、ナニが出てくる……)


 人と妖精のハーフである彼女は夜目が利く。

 だから星の輝きで周りを見渡せた。

 やがてソレを見つけたのだ。


「魔石柱? すごくデカイ。金貨数千枚ってとこかな……」


 ソレは強い魔力を秘めた結晶石の集合体が成長した物だった。直径は二メートル程度、高さは三メートルくらいだろうか。立派な魔石柱だ。相当な魔力が封じ込められているに違いない。宝石レベルの貴重な物体。発見したトロイは億万長者確定である。


(億万長者になんて興味はないな。けど、これが何なんだろう? 運命は僕にこんなチンケな物を見せたかったというのか……)


 肩透かしを食らった気分になったトロイ。

 ため息まじりに魔石柱に手を掛けた。


「うわああああ!」


 思わず悲鳴。慌てて手を離したのだった。


「ウソだろ……だがそういうことなのか。運命はコレを僕に見せたかったということか」


 呼吸を整え、今度こそは覚悟の上で石面に手を添えて、口にする言葉。


「キキト……」


 それは妖精族と獣人族との間に産まれたキメラの少女の名。

 キメラは異常の種。処分已む無しの異端。

 だが以前、彼女を対象としてキメラの育成実験が行われたことがあった。

 トロイも教師として彼女の育成に関わっていた。

 だがその試みは失敗。

 キキトはキメラの本性を発現させ、実父を捕食。

 母をも捕食しかけたところをトロイはキキトを攻撃して阻止。

 その後、逃亡したキキトは行方不明になっており、キメラの寿命である十数年を経た今、死亡したものと思われていた。

 そんな過去と今、向き合わされたトロイ。


「君はキキトなんだね」

『トロイ……』

「そうか。久しぶりだね」

『トロイ……』

「泣いているのかい?」

『ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい』

「いいんだ。もう、いいんだよ。キキト(すべては終わった過去の話だ)」

『トロイのこと嫌いって言ってごめんなさい。ごめんなさい。ウソだから、トロイのこと好きだから。ごめんなさい。ごめんなさい』

「あ、ああ。(あの時の事か、そんなことを気に病んでいたのかキキト)僕もゴメンね、ナイフで傷つけてしまって。でも僕だってキキトのこと大好きだからお相子だよ。だから気にしなくていいんだよ」

『で、でも……』

「泣かないでキキト」

『ずっとずっと……あれからここで、ごめんなさいしてきた。パパは許してくれた。でも、ママにもごめんなさい、したい』

「キキト……(あれからずっと、ここで……)」


 こんな山奥の僻地で、一人でずっとここにしゃがみ込んでいたのだろう。

 やはり幼女が一人で生きていくサバイバルなど到底無理な話だったのだ。


(何も出来ずに一人でこんな場所に……それから十数年もの間、全身を魔法結晶に包まれても懺悔し続けていたというのか?)


 百年以上も生き続け、多少のことには動揺しない冷静沈着なトロイも、そのことを想像してみれば涙が溢れてくるよりなかった。 

 感極まって魔石柱を抱きしめ頬ずりする。


「キキト、君は……くっ」

『トロイ? なんで泣く? キキト、また悪い子した? ごめんなさい。ごめんなさいぃ』

「いや違う。君はいい子だ。本当にやさしい子だ」

『トロイ?』

「いい子だよ。キキト。花○(はなまる)を描いてあげよう」


 先生だったトロイ。昔キキトの答案用紙に描いてあげてた花○(はなまる)を魔石柱の壁面に自分の涙を使って描いてみる。


『花○(はなまる)だ! すごい○だ! すごいね』

「ああ、君はすごいんだ。ご褒美に、今度ママを連れてきてあげるよ」

『ママ! ママ、ママ! 会いたい! ママー!!』

「落ち着いてキキト。まだ時間は掛かるよ。でもキキトなら待てるよね?」

『うぅぅ……』


 不満気なキキトの様子。

 トロイは思考を読まれないよう魔石柱から手を離す。


(この状態のキキトならママに会わせても問題だいだろう。いや、それどころか残ってる魔力的にいつ寿命が尽きても不思議じゃない。早急に手はずを整えないとな)


 平静を取り戻し今後の予定を思案する。


「……(とりあえずセイヤや殿下達との旅もここで一旦繰り上げさせてもらおう。彼らの道中はまだまだ長そうだしな。それよりもキキトの寿命が優先だ)」


 せっかく夢にまでみた救世の勇者パーティに参加できたものの、やはりキキトは放っておけないトロイ、思案は続く。


「……(母君のキーリィリ氏の所在は知っている。この場も星座で座標は特定した。この場までキーリィリ氏を連れての道中はやや骨だな。事がコトだけにキャラバンは組めないから、トータルで二ヶ月は掛かるかな)」 

 

 その時である……


「こちらです、キーリッリ氏」と、この発言したのはトロイ自身だ。


(なにを言っているんだ、僕は?)混乱する当人のトロイ。


 だが現実に、目の前にいるキーリッリ氏。


(あれ、彼女を連れてきたのは僕自身じゃないか? 記憶が……これって!!)


 さっきまで夜だったハズなのに今は日が昇っている。


(また、ナニかによって認識に介入されたんだ! しかも今度は記憶まで寝食されている!)

 

 強大な力に翻弄されるトロイ。

 待ち受ける結果はいかに……



次回も不思議ワールド

そして衝撃の事実が判明

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