異世界遊園地「奈落の底」
アトラクションの選択にしくじり、意気消沈のセイヤ達。
「気分なおしにジェットコースターにでも乗るか」
「あれか? よさそうではないか」
(怖がるかと思ったけど意外)
セイヤの提案に乗り気のチィルール。
「高いんだけど……」
「それが売りだからね。リリィーンは怖いのかい?」
「そうじゃないけどさ。嫌な予感が」
答えるトロイに不安げなリリィーン。
そんな感じだが、結局そのアトラクション「奈落の底」にやってきた一行。なんだかこの遊園地のアトラクション名いちいち物騒である。
「木造だ……(木造かあー大丈夫なんだよな)」
「近くまで来ると、けっこう高いのだな」
「この高さは世界で一番だそうだよ」
「なんか見てるだけでスゴイ」
お金を払って順番待ち。
ちょうどいいタイミングで乗り物が帰還してきた。
先頭に乗り込めたセイヤとチィルール。二番目に残りの二人。あとは知らない人達。三両編成の小さな車両だったが、これには訳がある。
「人力だ……(人力かあー大丈夫なんだよな)」
少ない車両編成なので建造物の強度に対する不安は和らいだが、乗り物の先頭に自転車が付いていた。これで車両を牽引するようだ。ラガーマンみたいに引き締まった筋肉を持つゴリラ系獣人が誇らしげに自転車に跨っていた。
一抹の不安はあるものの、これでちゃんと営業できているわけなので信用するしかない。
「それでは奈落の底へ出発進行!!」
地獄にでも落ちるかのような出発の合図。
ピーッっと笛が鳴り、発進する車両。
ゆっくりと傾斜を上っていく。
運転手の「フンッ・フンッ!」という熱い息づかいがBGM。
「わりと快適」
「絶景ではないか。よいな、この乗り物は」
「本番はこれからだけどね」
「あーやっぱりぃ」
やがて一番高い場所に――
「うーん。見事な眺めだ。よいぞ、これは」
(コイツ、もしかして分かってない?)
ノンキなことを言ってるチィルール。多分これからのことを分かっていない。
「いっくぜぇー!! ウーホー!!」
運転手の気合とともに車両は坂道を下り始める。
なにもしなくとも重力で加速するというのに、運転手は気合を込めてペダルを回す。
おかげでものスゴイ加速度で下っていく。
「あ、ああ、あああー!! アカン! アカンぞこれはあああ!! 止まれー! イカン! ぎゃあああああ!!」
案の定、悲鳴を挙げるチィルール。
「あぶなーい!! あぶないぞコレは! 止まれ、止まれーぇっ! がああああああ!!」
下りの加速を生かしてそのまま右横一回転の急ターン。車両は完全に右九十度横に傾いていた。
キリモミしながら地表に到達。
急降下と右横一回ターンだけの原始的なジェットコースターだった。
それでもこの世界には一般に普及していないモノなので十分に刺激的な乗り物だった。
降下し終わった車両は発車地点に戻るため、迂回しながら地面をゆっくりと進んでいく。
「なんだ。もう終わりか」
現実世界のハードなジェットコースターを知っているセイヤは物足りない気分。
しかしである、もうこれで終了と思いきや……
「へえー」
車両は木漏れ日差し込む穏やかな森のなかを静かに進む。木々の枝にリスや小鳥などの姿も見かけるのだ。それはホッとする安らぎの空間。
だがそれも終わり、ついには森を抜ける。
すると、いきなり視界が開け、そこは湖に架かった橋の上。
遠くまで見渡せる穏やかな風景。近くで噴水の水しぶきだ。多少濡れはすれ、虹が掛かったその中をくぐり抜ける見事な演出。
「上手いな。退屈しない。(恐怖感から一転して、この和やかさ。どこかで聞いたことのある演出だけど凝ってるなあ)」
「……」
乗客は先程までの恐怖感を忘れ、いつの間にかゆったりとした風景を堪能している。
その圧倒的な安らぎ感。
そして、とうとう終着。名残惜しい気分でみんな降車していくのだ。
だがもう一度この気分を味わいたかったら、再びあの恐怖感を乗り越えなければならないわけだ。
非常に良く出来たアトラクションである。
「大丈夫か? チィルール」
セイヤの声掛けに反応したものの、視線は前方を凝視したままコクコクとうなずくのみ。
(あーダメだ、こりゃ)
立ちあがったけど、ふらふらで、結局倒れてセイヤに肩から担がれましたとさ。




