逆レイプ? ってなんだっけ?
「これかぁ。すげー」
親切なオジサンの言うとおり朝市にやってきた。
「テレビと生じゃ、全然ちげーっ」
広場の朝市、テレビでたまに扱われるテーマだが、やっぱ外国(異世界)のせいか迫力がちがう。
そもそも朝市の規模自体は大したことはない、ちょっとしたフリマ程度。
だが、扱う商品、売人の威勢のいい啖呵、客も負けじと張り合って値引き交渉している。
「なんだこのバトル感、でもゲームっぽい、あはは、コレみんな楽しんでるだろ」
旅先で出会う異世界の日常、その感動、オレもまさか実体験しようとは。
「はい! そこの! カッコいいニィさん!」
「?」
「そぅ! アンタよ? ほかにカッコいいのいる!?」
「……」
マジですか? そんなこと言われたの初めてですが……
「ケイキはどーだい!? カッコいいニィさん!」
声の主は八百屋っぽい露天のオバちゃん。
つやつやポッチャリした三十路くらいのオバちゃん。
愛想が良いせいかなんかカワイイくて、コロコロしてるのもイロっぽく思えるのは、たぶん、チィルールのせいだなぁ。あのチビロリ助。
「ボチボチでんなぁ」と、てきとうに返してみる。
「そらアカンなぁ、じゃ、真っ赤なトマト買うてきぃ」
「なんでやねん?」
「赤(字)喰らって黒字だせーやなぁ――はっはっははは」
(大阪かよ!?)
まぁ、そんな感じだ。
そして、オレが新顔なせいか、やたらこんな感じでオバちゃん連中にカラまれる。
そして、その後。
「ええーっ!!」っとオバちゃんたち。
「なんですか?」とオレ。
いつのまにかオレ、広場の中央にいた。――というか立たされてた。
まわりには露天のオバちゃんはもとより、買い物に来てたオバちゃんも皆オレを囲んでいる。
「アンチャン、漂着者?」
「ですが」
再び、「エーッ!!」ってオバちゃんたち驚愕。
なんだよ、でもまぁ、珍しいんだとは思う。だが?
(でも、この街、マスターいるよな?)
「ニィさん、うふぅ?」
「はぁ?」
いきなり色目づかいしだした八百屋のオバちゃん。
このオバちゃん、なに朝っぱらから発情してんだ。
清廉な朝市でナニ考えて……えぇえ?
「アンチャーん」
「こっち、ちょっとキぃ?」
「おにぃーサーン」
オバちゃん連中、いきなり発情モード?
(なんだコレ? モテてるのか? でもやめて? )
囲まれて逃げ場がない。
マスターやさっきのオジサンの言ってたこと、夕べのチィルールなんかの様子がいっぺんにフラッシュバックしてオレを動揺させる。
女性ってなにげない普段の日常にも、突然こんな恐怖を感じることがあったりするのかな、と思った。
そしてまさにその状況なのが、オレ!
「ニィさん、ちょっと、触ってみてくれへん?」
八百屋のオバちゃん、バィーンってオッパイ張り出してくる。そしてオッパイより大きな丸っこいお腹も一緒にバイィーンだ。
「エへえ?! カンベンしてくださいよ。もぉ!」
「ん? ニィさん、まさか? スケベエなこと考えとる?」
「え!?」
「イヤやわーっ! 男のくせしてイヤラシイ!」
「どわっははは!」と、オバちゃんたち大爆笑。
(なにこのながれ?)
「まぁ、オバはんのオッパイでよかったらいくらでも触てもよかよ?」
また、オバちゃんたち爆笑。
「いえ、もう十分、けっこうです」
また爆笑。
(これって、まさか、セクハラなの?)
虐められているわけじゃない、ただ、イジられている。それは分かるんだけど、ネタが下ネタだがらかわしにくい。それを分かってて、オバちゃんたちはイジってくる。悪気がないのが分かるぶんだけシャットダウンできない。
(セクハラって、こうゆうモンだったんだなぁ)
オレいま、ホッペが真っ赤か。
この世界に来てイロイロ女性の立場を知ることになった。でも、ここじゃ役にたたない。意味がないけどね。
「マジックエールして欲しいだけだよ?」
「マジックエール?」
「なんだ、アンタまだドゥテイかい?」
まーた爆笑。
「だから、なんですか?」
「女に魔法入れたことないんか?」
「あ、あれか! (強制魔法過給加圧のことか)」
「それのこと、俗語でマジックエールって言うんだよ」
マジックエールか、そっちのほうが少し言いやすいかも。
「あれって、どうすれば? なんか勝手にでちゃうんですけど」
「ソーローだわ――、イヤーン」
イヤーンじゃねえよ! いい年こいたオバはんが。
「だから、マジですってば」
「ええ? それを、女に聞かれてもなぁ。でもな、聞いたところによると、ソレって『慈しみの愛をもって隣人の背をさすり、前へ向かう瞬間は支えとなり、進んだ先には安らぎの手のひらとなる』みたいなこと言われとるど?」
(そいつ、キモ!)
だって無償の愛を気取ってるけど、そいつが結局ラスボスってことでしょ?
ナメプしてるってことでしょ、ソイツ。
むかつくわーっ。
「まったく分かりませんな」
「そか、まぁとにかく、ホレ、触りぃ」
オバちゃん、オレの手をとり、無理やりお腹を触らせた。
「……」
「どや? なんか湧いてこんか?」
(湧くって、そうだなぁ)
『オバちゃんが立派な子を産みますように』って感じた。
だって、まん丸パンパンのお腹、妊娠してんじゃねーのw
『ぎゅっるるる・・・ゴボゴボゴボ!』
なんか詰まった下水がいっきに抜けたみたいな音がオバちゃんの腹から鳴った。
途端、真っ青になったオバちゃん、いきなり走り出し路地裏に隠れる。
「くそババァ、なに垂らしとんじゃ!」
路地裏から男の怒号。
「うっせーっ! 非常事態じゃボケっ!!」
オバちゃん、なんか立派な(うん)コがたくさん生まれたみたい。
それからは、もう、キャーキャーワーワー意味不明。
もみくちゃにされながら、オレは適当になんかヤリまくって。
気付いたら、まわりはぶっ倒れたオバちゃんたちが山積みとなった荒野。
そして、オレの両腕には「お礼」として受け取らされた肉野菜などの戦利品。
「重っ――」
紙袋をハチ切らしそうなほどの戦利品を両手に、オレは戦場を後にする。
あれほど活気だっていた朝市が見るも無残な荒れ姿。
「争いってヤツぁ、なにも生みやしねえ。だが、生きてるかぎりヤラカシちまわァ。ま、生物の性かねぇ、無情だねぇ」
オレはその場を去る。
そして、気付いた。
(コレって使えるじゃーん!)
スキップしながら宿屋へ戻っていく。




