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リリィーンんち、の昔話


 トロイが語る昔の話


 大陸の南がまだオクエンによって支配されていない大昔の時代。

 リリィーンの先祖、家督のドルオク家は大陸真ん中を西に寄った辺りの広大な平野を支配していた豪族だった。数百年前の話だけど一時は大陸を支配するのはオクエンではなくドルオクだといわれていたほどだ。

 けれど栄枯必衰なのか、南大陸を支配したのはオクエン家だったんだ。

 その後ドルオク家はオクエン家に服従を誓い武装解除。オクエンの保護のもと平野を農業地へと再開発。物資と食料の要として、その地を国の最重要区域に発展させたんだ。

 そうなるとオクエンもドルオク家を粗末に扱うわけにはいかなくなった。

 試合には負けたけど勝負には勝った状態だ。


「それなのにリリィーンの家は、なんで没落を?」セイヤの割り込み。

「さっきも言ったけど戦争だよ」

「でも、負けたんでしょ?」

「戦争違いだよ。没落のきっかけはその大昔の戦争じゃなくて、数十年前に起こった魔王大戦直後の南大陸分断戦争の話さ」


 トロイの話は続く


 魔王との対戦でオクエンの直系血族はほぼ途絶えたんだ。王が戦死したあとその跡目も次から次へと順番に戦死していったからね。第五位継承者あたりからは王位や貴族の立場を返上しだす有様でね。

 結局残ったのは魔王を退治した異世界からの勇者ヨシモト。そのパートナーであり恋人であったチィルール殿下のお婆様であらせられるセントルーィル様。

 その彼女だが、実はかろうじてオクエンの親戚といったところなんだ。

 そんな二人がオクエン国の新国王と王妃として担ぎ上げられようとした訳だ。

 そして貴族や特権階級の豪族からは猛反対さ。

 なぜなら二人は平民による平等な民主主義を掲げていたからね。

 だから魔王を倒したあと訪れるはずの平和はやってこなかった。

 勇者パーティを中心にすえた民主主義派と貴族派との間で戦争が起こった。


「バッカじゃねーの! せっかく平穏が訪れるってところで! 人同士が戦争? バカ過ぎだ!」

「まったくだね。でも当事者達は大真面目らしい。でないと戦争で命なんて賭けられないし」

「くそっ」


 なにかに憤るセイヤ。けどその正体はよく分からなかった。


 トロイの話が再開する


 勇者側の民主主義派がオクエン家。

 貴族派がマンエン家。

 両者の戦いにドルオク家が付いたのはマンエンだった。

 本来なら先祖が服従を誓ったオクエンにこそだったが、特権階級中の特権を持つドルオクだ。その判断はありなのかもしれなかった。しかもその時点でオクエンの血筋は途切れていると判断してもおかしくはないのだから。

 だが結果からみれば、結局ドルオクに未来はなかった。

 互いの勢力の真ん中に位置する広大な平野のドルオク家領地は恰好の戦場になってしまったんだ。

 戦士に踏み荒らされる農地。

 血にまみれる作物。

 かろうじて出荷できた農作物も『人の血と肉を肥料にして育った作物』として買い手がつくことはなかった。

 どっちに付いていたとしても結果は同じだった。

 そして没落の一途をたどる。

 あげく、領地はオクエン側の支配下に入ってしまった。

 マンエン側に付いたのが最期最悪の裏目だった。

 あの戦争で起こった不幸な話は山のようにあるけど、なにもかも失ったドルオク家ほどの話はまずない。


「リリィーンにそんなツライ過去が……」

「ああ。でも彼女が生まれた頃には、なんの栄華も残ってはなかったろうな。せいぜい親から聞かされた栄光の思い出話と、家督を示すあの時計くらいなんだと思う」

「あの時計か――」


 ちょっと見せられて盗品かと疑ったあの時計。

 それで怒ったリリィーン、そのことも今では理解できるセイヤであった。


(あいつにはあいつの生き様があるってことか可哀想なもんだ……でも生意気、な!?)


 普段はドジマヌケなリリィーンがちょっとカッコいい感じなのが許せないセイヤでもあった。



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