異世界の早朝の何気なく
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「ブリブリ」
朝がきた。
「ブリブリ」
こっちの世界のスズメは「ブリブリ」って鳴く。
可愛くない。
「今日もいい天気だなぁ」
オレは部屋の窓を開ける、と綺麗な朝日が差し込んで、そして……
空が青い
青いけど?
それがなにか?
実はコッチの世界に来たときに見たあの薄緑色の空は、その時以来見ていない。
チィルールにも聞いたけど、あんな色の空あの時が初めてだったのこと。
なんだったのか結局分からずじまいだが、まぁ、空の色に重要な意味などないわな。
ただ、姿を現したお日様が眩しいよ。
「早寝早起きがすっかり身についたよな……んんんー」
背伸びして身体の筋を伸ばす。
チィルールはベットの中でまだ寝てた。
簀巻きのシーツは剥がれ気味。サナギから羽化しかけの状態。
「前は休みの日に限って早起きできてたけど、今じゃ毎日休みのニート生活だしな」
ニートかな? でも正直、いつまでも宿屋暮らしって訳にもいかない。
だってお金が持たない。
役場でもらったお金、五十万5060オクエン。
だいたいだが、日本円に換算しても額面どうりのようだ。
ただ、喫茶のマスターにも勘定のときレクチャーしてもらったが、額面どうりとはいえ日本とは物価自体が全然ちがうから、買い物するときは値段をよく確認しなさいとのこと。
この宿一泊二人で銀貨10枚。
日本円でひとり五千円くらいか、旅慣れていないので安いか高いかわからない。
でも、ネカフェでナイトパックが二千円くらいだったから、宿屋ならそんなもんか。
(なんとかお金を稼がないと)
計算上、あと五十日(一ヶ月半)で予算ゼロになる。
じゃない! メシ代忘れてた。実際はもっと短い。
ネカフェ難民、いやホームレスで済めばいいけどまたサバイバーに戻るのはなぁ、それはちょっと……
魔物退治でお金を稼げるかとも思って、チィルールに聞いたのだが、魔物一体銅貨一枚が相場らしい。これって、こっちの通貨でいうと一円でしかない。どんなアフィブログだよ。
昔は魔物に襲われることも多く退治できれば報酬もよかったとのこと。
だが、あるとき異世界から来た勇者が魔王を倒し、この地に平和がおとずれたそうだ。
いまでは、人間類と魔物、棲み分けがちゃんとできてるらしい。
(勇者よけーなことを)
なんとか働き口をみつけないと飢え死にする。
惨めだ。
親の金で高校生やってた自分に戻りたい。
なんで異世界転移なんだ?
見知らぬ土地へなんの準備もなく、いきなり放り出されたら命の危機しか感じないぞ? マジで!
ああ、アニメの主人公がうらやましい。
だってヒロインや他のキャラが全部お膳立てしてくれるもんなぁ……
オレなんて、おもらしロリビッチのヘッポコ剣士チィルールだけだぞ?
いままでのイメージてきには――
ターン1 チィルール、魔物に立ち向かう
ターン2 でも、コケたり、剣落としたりする
ターン3 魔物反撃「ガオー」
ターン4 チィルール、ビビッてオシッコ・じょー
ターン5 オレ、慌ててチィルール抱えてその場から退散
ターン6 オレまでコイツのオシッコでビショビショじゃん(泣)
だいたいこんなイメージ
(ハンデにしかなってねぇよぉぅぉぅ)
だが、いまさらチィルールを放り捨てるわけにも……
(どーすかっなぁ)
貧乏な家のオトーさんってこんな気持ちなのかなぁ。
なんか、ますますウツがはいる。
(よし、こんなパターンのときは……)
考えてもマイナスなだけ、思考停止でプラマイゼロだ。
「朝飯を調達しよう。そうしよう」
とりあえず、ホントにとりあえず、なんのアテのないが、オレは朝食確保のため部屋を出て行った。
オレは宿屋のフロントを覗く。
誰もいない。
受付テーブルに『closed』のPOP置物。
「クローズってスペル、こっちの人にはどんな表記に見えるんだろ?」
オレには英語スペルに見えるが、さしずめルーン文字あたりかな?
「さすがにこの時間に営業はないわな。日本じゃあるまいし」
一応、呼び出し鈴はあるが、この早朝に呼び出すのは、なあ?
けど、入り口のドアは開いていたので、オレは外へ出かけた。
この宿屋は街の外れ、小高い丘の上にあった。
と、いっても中心部からはそう遠くない。
だって街自体が地方街みたいにちっちゃいからだ。
丘の上だから見晴らしはそこそこ良い。
街のはてには海が見えるが、ここまでは海の匂いしてこない。
風向きか? それとも街の生活臭が勝るのか?
そして視界ちょっと下の手元には広域公園。
ちいさな池と広場、ちょっとした遊具。
休みに日はきっと家族連れのピクニックスポットになるんだろう。
「絶好の朝のお散歩コースじゃん」
オレは丘を下った。
「おはよう」
「え? あっ、おはようっす!」
あわててお辞儀。
びっくりした。
だって知らない人がアイサツしてくる。
(こっちの世界って、そおゆぅもんなのかな?)
最初はとまどったが、すれ違う人みんながそうなので自然と慣れた。
「おはようございます」
「はい、おはようございます」
コッチからもアイサツしてみる、けど、みんなちゃんと答えてくれる。
(この世界の人たちスゲーッ)
オレは感動した。
ウツだった気分なんて、どっかにイってしまった。
だからオレはちょっと調子にのって、話かけてみたりする。
そしたら皆親切、集まってイロイロ教えてくれる。
「この時間、店はあいてないよ?」
「十時には、ならないとね」
「でも、朝市ならやってるよ?」
「え? アンタ漂着者なの? モテるだろうなぁ」
最後の台詞、聞いてた人たち、なぜかみんな大爆笑。
(笑いのツボがまったく分からん)
とりあえず、オレも笑っとく。
そしたら、もっと大爆笑。
訳が分からない……
「まぁ、ほどほどにね?」
そう言って去っていくオジサン。
その他のオッサン達も、なんか「うんうん」って感じで離れていった。
(え? オレ、なんかヤバイの?)
喫茶店のマスターの話もあるし、これは、なんかありそうだ。




