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朝日の中で輝いてあきらめた二人


 砂浜に朝日の輝きが届くと、どこかしらから海鳥達の鳴き声も響き始める。


「ん?(どこだここ)」


 浜に打ち揚げられていたセイヤが目を覚ます。


「つっ(身体痛い。全身筋肉痛、それに関節もガクガクだ)」


 身を起こそうとして全身からの痛みに気づく。


「……(ノド渇いた。水飲みたい)」


 できればしばし休んでいたかったが、水への欲求は抑えられない。

 のろのろと立ち上がり、辺りを確認。


「ヤイタニック二世号!!」


 砂浜に完全に座礁しているクルザーを発見。

 あの嵐の中、津波レベルの大波を越えたあと、船は真っ逆さまに墜落状態。着水と同時に転覆。乗員は全員、船から柔道の投げ技でもくらったかのように海に投げ出されてしまった。

 そしてそこで意識は途切れ、今に至る。


「そうだ、みんなは? オイ! オーイ!」


 ヨタヨタと近づいてこちらに倒れ掛かっている船のデッキを覗くが誰もいない。

 遠目にも見えてはいたが、なにか痕跡を見つけたかったのだ。


「誰もいないか……」


 急に孤独感にさいなまれる。

 だからではないが、仲間を探さずにはいられない。

 船の反対側に回り込んだ。

 しかし開けた視界に人影を見つけることは出来なかった。

 白い綺麗な砂浜が続いているだけであった。


「マジかよ。カンベンしてくれよ」 


 それでも、考えたくはなかったが、打ち揚げられた船の下側に潰されていないか確認したり、大声で呼びかけてみたりした。けれど反応はなにもなかったのだった。


「ふぅ……(取り合えず人を探して救助を要請しよう)」


 ここが無人島でないことはすでに分かっていた。

 高波対策でか、護岸には石が人工的に積み上げられ整備されている痕跡があったからだ。

 もたれ掛かっていた船体から離れようとしたとき、もう一度、ソレの様子が目についた。


「キモ……」


 ソレを見た正直な感想。

 ひっくり返った船体に持ち上げられたイカリが宙ぶらりん状態になっていたのだ。

 赤・緑・黒・紫色々な種類の海草が纏わり、その隙間をフナ虫みたいなのがゴソゴソと這いずり回っていた。

 気持ち悪いのであまり視界に入れないよう意識してはいたのだが。

 

「イカリも永く使ってると海の中でこんなになっちゃうんだなあ……(でもなんか既視感?)」


 そしてイカリを吊るしているロープに気づいたのだ。 


「オレの使ってたリード!? じゃ、これは、まさか!?」


 リードに繋いだのは二人。チィルールとリリィーンである。どちらかに間違いない。


「あー、リリィーンかぁー」


 海草をひっぱり、外してみたら、中から現れるのは死んだ魚のような真ん丸おめめをしたリリィーンであった。


「死んでる……のか?」


 ぱっちりと見開いた眼、でも瞬きもなしに瞳孔も開きっぱなしだ。


「なんまんだぶぅ――なんまんだぶー」


 手を合わせてリリィーンのご冥福を祈るセイヤ。


(思い起こせば、お前は凄く可愛いヤツだったよ……そうさ、ナントカほど可愛いってな。だから安らかに眠ってくれ)


 だが、その時、奇跡は起こった。


「み……みずぅ……水ぅ……」

「ゲ! 生きてんのか!」


 亡者が生者の命を欲せばんかのように、両手を突き出すリリィーンの姿。

 その動きがまずかったのか、微妙なバランスで安定してた船体がこちら側に向かって倒れこんできた。


「ホゲ!!」


 本当にヤバイ時にはヘンな声が出るものである。

 慌てて逃げるセイヤ。

 そのセイヤに覆いかぶさるようにリリィーンの身体が圧し掛かってきた。


「ヒャゲ!」


 巻き込まれ倒れるセイヤ。

 だが、まだだ。船体がゆっくりと二人を押しつぶさんかのように倒れこんでくる。


「ヒャーァ!」


 背負ったリリィーンとともに這い蹲りながら慌ててその影から脱出する。


『ズズーン!』という衝撃と「メキメキ」という軋み音が船体のどこからか聞こえてきた。


「あっぶーねーっ! ギリギリだったじゃねーか」


 倒れこんだ船体ギリギリのところにある二人の身体。

 本当にギリギリであった。そしてそれはイロイロとである。


「大丈夫か? リリィーン」

「み、みず……」

「よし。待ってろ。すぐに用意してやる(お? これでいいよな)」


 セイヤはたまたま砂地に突いた自分の手の平に当たったソレをリリィーンの口元に差し出した。


「リリィーン、ほら、ミミズだ。イソメかゴカイかもしれんが、今は贅沢言ってる場合じゃない。だから食え、リリィーン」

「……」

「オーイ? リリィーンさん?」

「……」

「ヤバイかな?」


 リリィーンを背負って、ヨロケながらも、他に助けを呼びにゆくセイヤであった。



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