栄光の終着点
嵐は続く。
セイヤ一行の行く末は?
「ケイデンス上げろー!」
と叫んだのは、この人力船ヤイタニック二世号を操る船主のギイさん。
船首に設置された自転車みたいなのに乗って必死にペダルを回している。
風も雨も嵐も関係ない。
ただただ前へ進むためにペダルを回すのだ。
「俺は勝ってみせる! みんなのためにっ!」
領域という世界に入っている彼の言動はイマイチ理解不能。
嵐を避けずに正面突破を選んだのもこの男の仕業。
「まだだ! 俺はまだなんだ! 全部を出し切っちゃいねえーっ!」
よく分からないが、大変なことになってるっぽい。
そして嵐の状況悪化。
目前に迫ってくる大津波級の波。
「あの大波の向こうの待ってくれてる仲間がいるんだ!」
いや、待ってない。
待ってるとしたら、それ死神だよね。
「ウッオオオオオオオオ!!!!」
ギイさんの咆哮、かき回すペダル。ヤイタニック二世号は、その山のような大波を駆け上がっていく。
(もう少し、あともう少しなんだ!)
そして船はその頂へと達しようと、今……
(あれは、高校時代のインターハイ……)
ギイさんはその時のことを思い出していた。
『刃猫・ロードレース大会』
それは俺の高校生活最後のロードバイクレースだった。
最終日三日目。
最終ステージゴール前。
それは優勝高が決定する直前。
「ウッオオオオオオオオ!!!!」
ゴールまであと五十メートル。
最後のスパート。俺は全力でロードバイクのペダルをかき回す。
最後の坂。これを制した者が勝利者となる。
そうだ、俺の両隣には最後の敵がまだ残っていた。
「バブバブバブ・バァッブー!」
右のヤツはヘンな奇声を上げていた。でも速い。
そしてハゲだった。
「ホモホモホモホモホモホンモー!」
左もヤツもヘンなこと言っていた。でも速い。
そしてコイツもハゲだった。
ゴールまであと二十メートル。
三者三つ巴の闘い。
「ウッオオオオオオオオ!!!!」
「バブバブバブ・バァッブー!」
「ホモホモホモホモホモホンモー!」
ゴールまであと十メートル。
バイク同士が接触しても誰も怯まず揺るがない。ただ真っ直ぐにゴールラインを目指している。
「ウッオオオオオオオオ!!!!」
「バブバブバブ・バァッブー!」
「ホモホモホモホモホモホンモー!」
ゴールまであと一メートル。
「アー!!」
その時、俺はあの時のことを思い出していた。
そう、あれは小学生の運動会。
最後の種目。クラス対抗リレー。
赤組との優勝争いが懸かった大事なレース。
そのリレーのアンカー選手だった俺。
バトンを受け取り走り出す。
普段なら仲間の作ってくれたリードも関係なくぶっちぎりでゴールできる実力をもっていたはずであったが、あいにくその時の俺は激しい便意に襲われていた。
ケツを庇いながら走るが、いつもの半分程度のスピードしか出せず、遅れていた赤組のアンカーがドンドンと差を縮めてくるのが分かった。
「ウッオオオオオオオオ!!!!」
気合を込めて肛門を閉ざす。
ゴールまであと三メートル。
すぐ後ろまで迫った赤組のアンカー。
ゴールまであと二メートル。
接戦になったレースに沸く観客。
ゴールまであと一メートル。
「アー!!」
その時、俺はあの時のことを思い出していた。
そう、あれは親父の中からお袋の中に移動した時のことであった。
数千万個の仲間が一斉にゴールである一個の玉を目指していた。
一番になれたモノしか生き残れない運命のレース。
「ウッオオオオオオオオ!!!!」
最後の突進。
ゴールまであと一マイクロメートル……
「アー!!」
その時、俺はあの時のことを思い出していた。
ザー・ザザザ……
ピヒョーパピピー・メヒョヒョヒョフー
マヒョピュムー・ッピッピパピー
ヒュヒュヒュー・パミプーパパパー
ピリピーパパムーヒュパムー
ピュー!!
プツン……
今日も元気にフザケンナー
底辺なろう作者に怖いものはねえ!




