嵐の中で輝いてイリュージョン
嵐の勢いはいまだ衰えることはなく。セイヤ一行が搭乗する船を揺すぶり続けている。
「リリィーンがいねえ! 落ちたか?(オトリが犬死なんてもったいない)」
デッキ最後部から、まわりを見渡すセイヤが欠けたメンバーに気付いた。
「おねーちゃんならソコにいるよ」とギコくん。
「え?」と確認。
いつの間にか目の前に立っている。その後ろ姿。
「うお! なんで棒立ちしてんだ。危ないだろ」
と声をかけた瞬間、消え去るリリィーン。
「な?」
と思ったら次の瞬間、またそこに平然と立っているし。
「そのおねーちゃん、さっきからずっとそうだよ」
「へ?(死んで幽霊? 地縛霊ってやつかー。ナンマンダブーナンマンダブー)」
だが現実はそんなオカルトファンタジーではないのだった。
この現象にはちゃんとカラクリがあった。
「ひゅっ」
小さな呼吸音を残し、消え去るリリィーン。だがその身体はバウンドした船体から宙に放り上げられたにすぎない。
そして、勢いよく「ザボーン」と海面に落下した。
「リリィーン?(死んだか。でもお前のコトはきっと誰かが忘れないでくれると思うから成仏しろな?)」
だが、次の瞬間!
「ひゅぅ」
波に打ち上げられたリリィーンの身体が、命綱の引き寄せと合わさり絶妙なタイミングで元の場所に落下。
しかも、生卵ですら受け止められるかのように、身体の落下と船の落下が完全にシンクロしていた。
だから膝すら屈伸しない絶妙のタイミングで、リリィーンの身体は元の場所に立っているのだ。
「スゲー! イリュージョンかよー!」
重力を無視した慣性のベクトルで動く(動かされる)リリィーンに感動するセイヤ。
「なんかケン玉みたいだねー!」
とギコくんの子供らしい素直な感想。
確かに紐に繋がれ宙を好き勝手に浮かばせられ、その後静かに台に着地されるその玉よ。まさに!!
(ケン玉……)
(ケン玉かー)
(ケン玉だ!)
「……」と一同、一呼吸。
『ぎゃはハアッはハハッはハアハッはあははははははっははははははh------!!!!』とみんな大爆笑!
激しい嵐の中、死線を伺って絶望空気だった今この状況に笑いを届けてくれたリリィーン。
それは見事な芸であった。
それなのに、当のリリィーンは相変わらず死んだ魚の眼みたいな腐った真ん丸オメメで宙を舞っているのだった。
「ピュンピュンピュー……」
やったね!




