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クルーザー 海上で楽しい昼食


 お昼時。

 昼食のため、クルーザーは停止しました。

 そのついでに水面を水切っていたリリィーンも無事回収されたのでした。


「いやあ、失敬、失敬」にこやかなギイさん。


「……(フルフルフル)」


 と、ブランケットをかぶり、暖かいお茶を啜りながら震えているリリィーン。


「だから言ったろーが。お前らは落ちるように出来てんだから。ちゃんとリード付けといて正解だったろ?」


 とセイヤ。広げられたお弁当のパンを頬張る。リリィーンには容赦ない。お互いの因業は深い。


「でも、あの、なかなか楽しそうではあったかもな」


 とチィルール。フォローのつもりかもしれないが姫様じゃなかったらぶっ飛ばされるレベルの暴言。


「大丈夫かい? 無理してでも何か口にしておいたほうがいいよ」


 トロイだけが彼女に優しい言葉。

 だってその他の者は……

 子供のギコくんの感心はお弁当のほうにあったし、いい仲っぽかったギグくんも気付かなかった罪悪感からか言葉をかけられない気まずい様子。


「あ、これいい。うまい」

「どれだ? セイヤ」

「これ野菜の春巻き」

「野菜かぁ」不満気なチィルール。

「お寿司サイズで一口だし、中のドレッシングというかソースが合う。レモン風味の甘いのが、なんかいいな。トマトみたいなベリー(?)や大根みたいなサクサクの芋っぽいのと良く合う」


「獣人族は基本肉食だけど、その獣人族ですら喜んで食べる独自の一口サラダだからね。旨いはずだよ」


 ハーフエルフで肉より野菜が好きなトロイも満足そう。


「えー? 僕は好きじゃなーい」

「ギコ、好き嫌いはダメだ」

「お兄ちゃんだってーぇ」

「僕は普通に食べれるし」


 兄弟の会話。

 茶を啜って震えているリリィーンのことなんて、もう誰も気にしてませんね。これは。


「こっちの肉も試してください。私が仕留めた獲物を自分で捌いて熟成させ燻製した自慢の一品ですから。こっちのチーズもぜひ。これは家内のお手製なんですよ。凄いですよね我が妻は。私とは相性バッチリです! わーははははっは」

「あはは――ではいただきます。うあ、うん! これは本当に高級レストランの味だ。スゴイです」

「おお、さすがは姫様の付き人。セイヤ殿は文化人ですな」

「付き人じゃありませんよ? 保護者です」

「ええ? わーははははっは!」


 そんなやり取りの横でナニかをやっていたチィルール。


「できたぞ! セイヤ! 見ろコレ!」


 なにやら、はしゃいでいる様子。


「あ、これお前、作ったの?」

「どうだ! 凄いであろう!」

「あははは。うん。すごいな」

「むふふふーっ」


 チィルールの手に握られていたのは、上下に裂いたパンの真ん中にサラダと肉とチーズを挟んだモノ。

 それは不恰好ではあるが、間違いなくハンバーガーであった。


「ハンバカだ!」

「ハンバーガーな?」

「旨そうだろう?」

「うん(いや、汁マミレみなってて、なんかキチャナイよ)」

「ではまずセイヤにこれをやろう」

「あー、うん。ありがとうな。……ウンウン、うめー!」

「そうか、そうか! うん。よかった!」


 大喜びのチィルール。見ているまわりも笑顔になってしまう。


「いーなー。僕もソレ欲しい」

「ギコ!」

「かまわん。待っておれ、すぐに作ってやる」

「わーい」

「あ、じゃあ、もしよろしければ、僕もその……」

「おお、任せるがよい!」

「ありがとうございます」

「忙しくなってきたぞー」

「わー」


 海上移動中のエネルギー補給、ただの昼食だったはずなのにパーティ騒ぎになってしまった。


(あれ? でもパンにナニかを挟むって縁起悪いって嫌われたよな)


「単純な料理なんだが、意外とこの世界では認知されていなくてね。ヒト族社会では嫌われる食べ方だし。でも異世界からの漂着者にとっては想いいれのある食べ物らしいね?」

「ええ――」


 セイヤの疑問を察したかのように博識なトロイが声をかけてくれた。

 色々と現実世界のことを語りたいセイヤだったが口をつぐんだ。


(今の現実って、この世界のことだから……)


 隅っこのほうでブランケットを被ったリリィーンが死んだ魚のような目をして、ハムの切れ端、もくもくとカジッてた。

 


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