やっぱりリードは勝利した
ギイさんのクルーザーに搭乗し出航準備オッケーのセイヤ達。
舵を握るはギイさんの長男ギグくん。
まだ中学生くらいなのに頼もしい。
「僕は敵を見張る」
そう言ってデッキの屋根に上がったのは次男のギコくん。
敵とは? なのだが小学生くらいの彼に与えられた任務としては妥当なのかもしれない。
そして、当のギイさんは……
「私こそが、この船の心臓である!」
頼もしいそのお言葉。だが……
ギイさん、船の船首に装着された、というか完全に一部となっている「自転車」に誇らしげに跨っていた。
「へーぇ、人力かー(……人力かーぁ)」とセイヤ。少し悲しそう。
「カッコいいではないか」とチィルール。能天気。
「獣人族独特の工芸品だね。非常に興味深い」とトロイ。今からその工芸品で海にでますよ?
「さすがギグくんのお父様! 素敵ですわ」とリリィーン。どうでもよい。
一同それぞれの反応。
「みなさん。準備はよろしいかな?」
「はい」
「うむ」
「ああ」
「けっこうにございます」
「では、発進シークエンス開始!」とギイさん。なんかカッコ付け。
「進路クリアー!」と元気にギコくん。
「計器オールグリーン……」とちょっと恥ずかしそうなギグくん。
「ヤイタニック二世号! ギイ・グーグー! これからっ、うかがいまーす!」
ペダルを回し始めるギイさん。
船体がゆっくりだが確実に前へと進んでいく。
「うお、マジ動いた」
「スゴイぞ、これは」
「いいね、これ」
「最高にございます。お父様」
感心するセイヤ一行。
「まだだ! ケイデンスあげろ!!」
自分で言って、シュラシュシュシューと音をたて、ペダルをかき回したギイさん。
その力強い動きに合わせてクルーザーは猛加速!
「あ!」
「ひっにゅ!」
「ちょっと!」
「んー?」
猛加速のせいでクルーザーは船首を空に向け、ウィリーしてしまった。
「きゃはははははー」とギコくん、デッキ天上で大はしゃぎ。おそらくはいつものことなのだろう。
だがセイヤ達には不意打ちだ。
「ぅおっ?」
「せ、セイヤっー」
「掴まれチィルール!!」
「す、すまん」
抱きしめ合う、いつものセイヤとチィルール。
「トロイ! そっちはっ!?」
「僕は無事だが、リリィーンが振り落とされた! すまん!」
「べっつにぃー?(まあ、やっぱなー)」
反対側の左舷にいたトロイとリリィーンの二人。
今は一人しかいない……
だが、である。
こうなることを見越していたセイヤ。
ちゃんとチィルールだけじゃなく、リリィーンにも強制的にリードを巻いておいたのだ。
ギュンギュンと加速していくクルーザー。その少し後ろの海面上。
命綱を巻かれたリリィーンが船体に巻きつけられたリードに引っ張られ、水切り石がごとく水面をチュンチュンと擦れながら付いてきていた。
(出っ張り(オッパイ)がないぶんだけ上手に跳ねてんなーぁ)
冷めた眼で水切り石状態のリリィーンを眺めるセイヤ。
「イエーイ!」とテンションが上がったギグくん、舵を左右に回し蛇行運転。
「ヤッハー」
「キャハハハハ」
とギイさんとギコくんも大はしゃぎ。それは彼らいつものお遊びだったのかもしれない。でも乗客のことを完全に忘れている。
「リ、リリィーン!」
クルーザーが蛇行するたび、海面を跳ねるリリィーンの身体もすんげー勢いで左右に転がり回るのであった。
なんか「必殺!! リリィーン・スピンドリルー!」みたいな感じだった。
まぁ、必殺なのはリリィーン本人なんですけどね。




