出発の朝 やらしー
出発の朝。(後にルルーチィがここを訪れる日の早朝)
ギイ邸でお世話になっていたセイヤとルルーチィ、それにリリィーンとトロイ。
軽く済ませた朝食時に示し合わせた集合場所。ここは屋敷門前。
ちなみにリリィーンがまだ来ていない。
待っている時間はすこし手持ちぶたさ。
「ワクナ手前のソソシロまでご案内します。ソコから先は安全な一本道で進めますから」
とギイさん。これからの予定を告げてくれた。
そして、なぜ最後まで案内してくれないのか、という疑問は後に明らかになる。
「どれくらい掛かりますか?」
セイヤの疑問。それは彼が異世界転移者でこの世界のことに疎いことと、そしてメンバーの中で一番まともな感覚の持ち主であることにもよる。その他のメンバーはトロイを除き、なんというか今に生きているというか今にしか生きてないような、ようは子供だった。
「お昼過ぎには着きますよ。時間しだいですが私も日帰りで済ますつもりなので」
「けっこう近いんですね」
「いえ。そうでもないですが。私が頑張りますから。ワハハハハ」
「?」
よくわからないやり取り。
「お、リリィーンが来たぞ……お?」
チィルールが間抜けた台詞。
「おせーよ。普段からキレのいいウンコを心がけ……ろ」
セイヤも間抜け声。
「……」
その場の皆がこちらにやってくる二人を無言で眺めていた。
そう、リリィーンともう一人、ギイさんの長男ギグくんが横に並んで近づいてくる。
しかも、手ェ繋いでるし!
(なにコイツラ。昨日までこうじゃなかったよね。やったの? 交尾ったの? やらしー感じをなんで隠さないんだ? まぁ、それは別にどうでもいいんだけどさあ)
恥ずかしげに少しうつむいてるギグくんはともかく、フフンと勝ち誇ったような表情をセイヤに向けてくるリリィーン。ギグくんにちょっとだけ、しな垂れかかる。
(お前はナニを勝ち誇ってるんだー! オレからギグくんを寝取ったってつもりか? あり得ん! それともオレがリリィーンに惚れてるからしてたと思っている意地悪の仕返しをしてるつもりなのか? それこそあり得んだろーが!!)
現実でかってにドラマゴッコを始め、人をなにかのキャラ設定するヤツもまれにいる。
そいつとは話をしても会話が成り立たないし、影でかってに妄想の捏造話で人を陥れようとするんだよな。
それなのに、なぜか自分のほうが陥れられようとされる悲劇のヒロイン設定になってたりする。
そんな、どうにも困った人もいる。
そして今、セイヤの目の前にもいる。
(畜生リリィーンの分際で! メッチャ腹立つワーくそ)
どうにかしてやり返したくて、セイヤはそばにいたチィルールの頭をナデナデしてやった。
だがこれは悪手。
ナデナデ大嫌いなチィルール。セイヤの手をパシィとなぎ払う。
勝ち誇るリリィーン。
呆れるセイヤ。
フンと鼻息を鳴らすチィルール。
蚊帳の外からシニカルでニヒルな表情を浮かべるトロイは観客を気取る。
場を収めようと「まぁまぁ」とか言ってるギイさん。
微妙な空気。
そこに現れたのは……
「ボク、も、いく……」
リリィーン達の背後で見えなかったが、後ろからパジャマ姿の次男ギコくんが眼を擦りながら登場した。
「ふぁーああああ!」
背伸びして眠気を散らしたギコくんであった。
それでなんだかへんな空気どっかいった。




