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潜入ギイ邸 明かされた衝撃の真実


 邸内に侵入したルルーチィ。


(チィーちゃんに、やっと会える!)


 行方不明になってたオクエン国姫のチィルールとようやく再会できる。

 そんな浮かれた気分。

 

(でもギイさん親子には気付かれたくない。油断しちゃだめ!)


 邸宅家主とは浅からぬ因縁もあった。


(ごめんね、チィーちゃん。何ヶ月も一人にして)


 でもそんな困難を乗り越えやっと出会えるのだ。幼馴染であって親友でもあって、自分の命を賭けることのできる我が姫君にである。


(やっぱゲストルームとかは二階だよね。階段ないけど、どこだろう)


 従者などは一階だったりするがルルーチィにとって見知らぬそんな連中なんてどうでもよい。

 それに、玄関ホールはあるのだが、普通そこにあるはずの階段がないのだ。


(ま、いいけどさ)


 ネコ族の血をひくルルーチィにとって、テラスのように張り出している二階の通路の手すりにネコジャンプで飛び上がるなんて芸当は容易いことであった。


(生活臭、ギイさん達の匂いもある。でもコッチだ)


 そんな彼らの生活臭を避け、調度品などの匂いや焚かれた香の残り香がするゲストルームに向かって走っていく。


(ここだ! チィーちゃんの匂いがする)


 その部屋から漂うチィルールの発酵したハチミツみたいな独特の香り。ルルーチィの大好きな匂い。

 他の嗅ぎなれない匂いも混じってはいたが、身分などで差別をしないチィルールが従者と一緒にいるのだと思った。

 だからがっかりすることになる。


「お、おまえかぁ……」


 入り口、ドア代わりの仕切り布をくぐって部屋に侵入。

 そこの中央に置かれた大きなベットの上で眠っている人物を発見したのだが、それはパシュナさんだった。

 借り物の高級そうな寝間着姿。タオルケットを腹に掛け、どういうつもりか十字架を胸元に抱えるような感じで出刃包丁を握り締めて眠るその異様な姿。


(なにをくつろいでいるんだコイツはよお)


 この家に使者と遣わして事情や様子を伺ってきてもらうはずだったが、いっこうに戻ってこなかったのだ。だから拉致でもされたのかと思いきや、どうやら歓待された模様。

 

「……」


 ルルーチィ、近くのテーブル上にあった便箋を拝借。クルクルと筒状に丸めると、その先をパシュナさんの耳元に近づけそっと囁いた。


「ショタコンばばあ――」

「……っ」


 パシュナさんに反応あり。

 胸に抱いた出刃包丁を宙に掲げた。


「ブーッコッローォォォ!」


 奇妙な声とともに上半身も起き上がり、天にかざされた出刃包丁。

 どういう原理か不明だが下半身まで真っ直ぐに立ち上げる。

 天に向かって虹色の輝きを放つ出刃包丁。


 その奇跡的な状況を目の当たりにしたルルーチィ。

 丸めた便箋でパシュナさんのケツをパシッと叩いた。


「いやぁーん」


 パシュナさんの意識が戻る(?)。光も収まった。


「ルルーチィさん? こんなところでなにを?」

「ほへ、ほう! それをあなたが言いますか――約束してたおちあい場所に一向に姿を現さなくて一日中待ちぼうけをしてた私に聞きますか!?」

「あ、それは……」

「パシュナさぁーん? こんなところでなにをぉー?」


 意地悪い感じで聞き返す。


「じ、実は、なんだか私がルルーチィさんと間違われたみたいで。命の恩人に恩返ししたいとのことで」

「命の恩人? (ギイさん、私のコトそんな風に――じゃあキメラの血が暴走した私に、殺されそうになったことは内緒になってるのか)」


 ルルーチィの心にジーンとクルものがある。


「ギコくんやギグくんは? 私のコトなんて?」

「息子さんのことですか? 弟さんはカッコよかったと言ってたみたいですが、お兄ちゃんのほうはなんだかショックを受けて落ち込んでいたそうです。あ、でも、彼女さんが出来て元気になったとか」

「へー(そっか、彼女ができたんだ……)」


 ギグくんにはプロポーズっぽいことをされたルルーチィ、年下の子だしその気はなかったにしてもちょっとショック。

 しかしそこで違和感。


「いや、ちょっとマテ。なんでギイさん達は私とあなたを間違えてるの?」

「主は留守だったみたいで。それで夫人が――」

「あー、夫人からまた聞いた話なんだ。なるほど。で? 客人は? 重要な客人がいるはずなんだけど?」


 ようやく本題に。


「それが、今朝早くに、主に連れられて北のワクナに向かって出発したということなのです」

「がっはへーぶーっ!」


 鼻と口から同時に息を吹き出したルルーチィ。


(入れ違い? しかもこのバカうさぎ女のせいで半日以上のロス?)


 すぐ追えば追いつけたかもしれないのに、この屋敷に侵入するまでの時間を無駄に過ごしていたということになる。


「……(このバカうさぎ女ぁああ)」

「で、あのぅ?」

「……(ネーたんの旦那、よくヤッタ)」

「あのぉ報酬は?」

「くっ――、ショタコンばばあ! ザマア! あばよ!!」


 そう吐き捨てて窓から外へ飛び出していったルルーチィ。


(夜通し走れば追いつけるかもしれない。待っててチィーちゃん!)


 ちなみに、その夜の出来事から一週間後――


「誰、この女?」


 帰宅したギイさんに不審者認定されたパシュナさんは屋敷を追い出されましたとさ。


 めでたしぃ、めでたし。



次回から

セイヤ、チィルール編に行きます

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