交渉
短いです
乗り合い馬車内で出合った女性のパシュナさん。
ルルーチィの顔見知りと深い因縁があったよう。
でもルルーチィはそんな修羅場には関わりたくなかったので全力ですっとぼけました。
「でさ、当面その獲物のアテがないならさ。ちょっとバイトしてみない?」
「バイトですか?」
「そう。実は私、これからある人の家に伺うんだけど――ちょっと訳ありで直接会いづらいんだよね」
「はあ」
「で、パシュナさんがまず出向いて様子を伺ってほしいの。私の使者として」
「なるほど」
「……」
「……」
「ダメ?」
「いえ、報酬は?」
「あー、うん。銀貨三十枚(三万円)でどう?」
「残念ながら私にはやるべきことが――」
「銀貨三十五枚」
「……こうしている間のもあの野獣は――」
「あー、私、その野獣の情報知ってるかもー」
「受けます」
「銀貨二十枚。成功報酬としてネーたんの旦那情報。OK?」
ルルーチィ、ネーたんの旦那を売った。
「はい? ねーたん?」
「どう?」
メイド喫茶の身内でしか通用しない芸名でパシュナさんを引っ掛けたルルーチィ。
だが明確な単語を提示してみせたおかげで信憑性は増したはずだ。
「やります」
「成功させなきゃ、報酬なしだからね?」
「お任せください」
「……(流れの勢いでこうなったけど、この不安な気持ちはナゼだろう?)」
出刃包丁を握り締めているパシュナさんを眺めながら、そう思ったルルーチィでした。




